第6話 爆殺突進!ゼッペキを突破せよ!

 2106年

 トウキョウ・アダチ区


 アダチ区自警団本部から南下すると、トウキョウ心臓部をぐるりと囲む1000 mの壁、通称"ゼッペキ"が見えてくる。その壁の一部には縦横10 mほどの巨大な穴が開いていた。その穴の付近にはシブヤの門、すなわち魔界本拠地よりから派遣されたデーモン兵たちが警備にあたっていた。


 デーモンと言っても形態はさまざまである。魔界では細かい分類がされているが、ニホンジンの感性では詳細を見分けられないため、人型・動物型・寄生型・特質型などかなりの種族が十把一絡げにされている。


 特に穴の警備に当たっている兵は人型デーモンであり、その肌は紫色である。平均身長は腰を曲げた体勢で2 mを越しており、ヒトよりもずいぶん長い腕の先には岩をも軽々砕く巨大な手と、生きた肉を容易に切り裂く爪が付いている。


 対峙すると分かる。魔界では使い捨てにされるような彼奴等も一般人からすれば十分に脅威になりえるのだ。


 デーモン兵たちはその屈強な肉体をさらに現代装備で固めている。自衛アーミーが使用していた武装を勝手に改造して流用しているのだ。中々にみすぼらしい見た目ではあるが、まさに鬼に金棒といったところであるか。そんな禍々しいデーモン兵たちが律儀に穴の周りを警備している。彼らはいわば傭兵のような存在であり、魔界軍外交長官カリス・マジェスティによって手配された使い捨ての駒である。


「タリスマン班長、北部アダチ区の方面が騒がしいみたいです。」


 下級デーモン兵がタリスマンと呼ばれる別のデーモンに報告をする。件のデーモンは赤色の軍帽を身に着け、胸にはどこから拾ってきたか様々なバッチが付けられていた。


「フン、やはり来たか。戦力はどのくらいだ?」


「いえ、それが……」


 下級デーモン兵が言い淀む。自分が見たものをそのまま伝えてよいか迷っている様子である。


「君ぃ、報告は迅速かつ正確にだぞ。何を見た?」


「もっ申し訳ありません。その……木造の神輿のような物が大量に押し寄せています」


 —————————

 ———


 ゼッペキ付近はサツガイトレインの爆撃によって焼け野原と化しており、巻き添えを食わない居住区というのは壁から最低2, 3 kmほど離れた地域である。その地域では現在、途轍もない熱狂と共に祭りが開催されていた!


「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」


 休む間も無く、むさ苦しいヒトの男どもが口々に掛け声を上げながら煌びやかに飾られた神輿を担いで押せ押せと行軍しているのだ。


「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」


 神輿の数は全部で30基程、それらが次々と焼き払われたかつての居住区へと足を踏み入れる。


「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」「ワッショイ!」


『そこの人間ども!今すぐとまれ!!』


 拡声器を通しているためであろうか、音割れと耳鳴りで不快な声が聞こえる。声の主はタリスマンである。彼は下級デーモン兵の報告を受けて即座に動いた。既に謎のお祭り集団はゼッペキから1 kmほどの距離まで近づいていた。


 本来であればサツガイトレインによって一掃されるはずであるが、昨日の謎の脱線事故を受けて代理の警備として急遽、魔界傭兵のタリスマンたちが配備された。慣れないニホンという地での初任務。自身たちを人間より遥かに優れた生物と疑わない慢心によって彼奴等はみすみす不審者どもの接近を許してしまったのだ。


(くそっ!温室育ちの雑魚ばかり連れてきたのが、仇となったか……報連相すらマトモにできんとはっ!?)


 タリスマンは顔中に血管が浮き出るほどのストレスに頭痛を覚えながら警告を続けようとする……が。


「ワッショォォォオオオオイ!!!!!」


 三列に並ぶ神輿集団の先頭がゼッペキの穴の直線上に停止すると、後続に控えていた神輿たちが左右に広がる。


 それと同時に神輿の前方が開き、ロケットランチャーを構えたお祭り男たちが次々とロケットをぶっ放す!!


「ワッショォォォオオオオイ!!!!!」


 ヒュン!ヒュンヒュンヒュン!!!


 その数何と10門以上!警備に当たっていた下級デーモン兵たちはこれをまともに喰らい絶命!!なんとバイオレンスなお祭りであろうか!!


 命からがら回避したタリスマンは左右から怒涛の勢いで突進してくる神輿を尻目に退却を開始した。それと同時にゼッペキの内側へと連絡をする。


『こちらタリスマン、ゼッペキは突破された!繰り返す、ゼッペキは突破された!ブリーフィング通りだ!即座に包囲網を敷き、始末しろ!』


 ロケットランチャーを打ち尽くした神輿の中から男たちが次々と脱出する。その胸にはアダチ区自警団のワッペンである!!彼らの役目はこれで終わる。後は後続の神輿集団にすべてを託した。脱出を終えた自警団メンバーたちはゼッペキの内部へ侵入する同志たちへ敬礼をした。その姿が見えなくなるまで。


 —————————

 ———


 トウキョウ心臓部・タバシ


 ゼッペキ内部への侵入を果たした神輿からはロケランを担いだ兵ではなく、軍用バイクに乗った二人一組の男たちが次々と発進する。


 その中には場違いのハーレーダビッドソンがエンジンをふかしていた。ボディが妖しく光を放ち、爆音を奏でながら神輿から発進する。


 乗り込む二人組は、学ランの男とニンジャ装束に身を包む女、タツヲとソラハである。後部座席からは"喧嘩上等"ののぼり旗を掲げ、トウキョウ心臓部にツッパリ・ヤンキーとニンジャが降臨した!!


 ズンズンズンドコ、ズーンズンズン。


 脈拍を狂わせるほどの振動を放つ重低音EDM。その音源はタツヲの駆るハーレーである。彼の愛車は街の中を殺人的光量のヘッドライトで切り裂きながら進む。


「おい、ソラハ!不便ねぇか?」


「……問題ない。このまま国家議事堂へ一直線で行くの?」


「あぁ、シンゾーさんがドでかい花火を合図として打ち上げてくれるらしいからな、遅れるわけにもいかんでしょ!!」


 そういうとタツヲはさらにハンドルを絞りスピードを上げる。


 ギュン!ギュン!ギュン!


 片側五車線の道路で一切スピードを緩めることなく一直線で進む。周りの車両から見れば宛ら光の軌跡である。


 彼らの走る道路はヤマノテ・ラインに沿った環状道路であり、タバシから東側のゼッペキを添うように走れば最短でカスミガセキに到着することが可能である。


 他の自警団メンバーは攪乱の目的で異なるコースを使用している。このように何人ものバイカーがネズミのようにトウキョウ心臓部に侵入を果たしているわけである。


 総攻撃の合図は隊長であるシンゾーに一任されている。彼の合図をもって一斉に国会議事堂への攻撃を開始するという算段だ。


「~♪~~~♪……?」


 気持ちよくハーレーをぶっ飛ばしていたタツヲであったが、違和感を覚える。後方からあからさまに法定速度を越えた黒色のSUVが二台、こちらへ向かってきているのである。


「おいおい、スピード違反かよ……」


「私たちが言えた義理じゃないでしょ」


 その時である。前方右手の道路からこれまた同種同色のSUVが二台、合流してきたのだ。ソラハはニンジャ装束からシュリケンをゆっくりと取り出す。


「タツヲ……運転は任せるわ」


 タツヲは前だけを見続けて肯定する。


「任せておけよ!頼むぜぇ、ソラハ!!」


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討魔忍法伝:両親を殺したデーモンに復讐するため、シン・ニンジャになります。 @takashima_radio

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