第6話

「シャルル様!また縁談断られたんですか!?あれほどの好条件で、うちに嫁に来てくださるお嬢様など他にいらっしゃらないというのに……!」


「お、怒らないで、アン。だって僕は君を愛してるから……」


「それはもう聞き飽きました!まったく、どなた様にも同じように愛の告白ばかり!そんなことでは縁談相手のご令嬢に信じてもらえないのも道理ですよ!」


 本当にこのおぼっちゃまは!私の気も知らないで、軽々しく好きだの愛してるだの!そう言うのは本当に愛してる方だけにお伝えしてくれとあれほど言っているのに!


 大公家から随分と早く帰ってきたと思えば、肩を落としたカーティス様から縁談がご破算になったことを知らされ。おまけに単に両者の性格の不一致などではなく大公家そのものを敵に回して帰って来たとか。


 大公家のご当主様は随分ご立腹だったと聞く。ああ、旦那様が聞いたら卒倒してしまわれるのではないだろうか?ただでさえご子息のことを胃を痛めながら見守っている旦那様のこと、今回のようなこと、どれほどの衝撃だろうか。奥方様の心痛もいかばかりになるか……!


「本当に、どうしてそんなことになってしまわれたんですか―っ!昔はこんなではなかったのに!その異常な告白癖は一体どこから……!」


「アン……僕、君が好きなんだ。愛してるんだよ。どうか信じて。必ず君を幸せにする」


「はいはいわかりました!ありがとうございます!私の幸せを願うなら、まずは縁談を成功させてから言ってください!」


 相変わらず例のごとく適当なことを言っているシャルル様の背を押して、ひとまず風呂場に突っ込んだ。流石にその中での世話は下男の役割だ。痛む頭を抑えながら、私はシャルル様の部屋に引き返す。風呂から出てきたあの方を迎える準備をしなければいけない。


「縁談はご破算、大公はご立腹、シャルル様はあの調子……。ああ、もう!一体何が不満だって言うのかしら!」


 溜息が出る。何もかもが上手くいかない。一体このお家が何をした。そもそもどうして、シャルル様はあんな風になってしまったのか。昔はああではなかったのに。


「本当に、どうしてしまったんですか、シャルル様。昔のあなたはどこへ行ってしまったんですか?私がいない間にいったい何が……」


 独り言ちても状況は変わらない。結婚できないワケあり公爵と、恋心を持て余したメイドがいるだけ。頭痛がさらに勢いを増した気がして、私は思わず低く唸った。


「あーあ。これだけ結婚できないって言うならもう私でいいじゃない!なんて無理だけど」


 まったく。このワケあり公爵様は、本当にきちんと結婚してくださるのだろうか?

 そして私の恋心はきちんと終わりを迎えられるのだろうか?


 そもそも、この公爵様、一体全体どうしてこんな求婚野郎なってしまったのだろう?


 私の頭を悩ませる公爵様の婚活の日々は、まだまだ始まったばかりだった。

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求婚公爵の婚活日記、片思い中のメイド添え さめしま @shark628

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