File.1-2 不運とゆかいな仲間たち

 十七夜かのう高校。守の通っている高校で、偏差値そこそこ、運動そこそこな学校である。何かに特別力を入れているわけではないが、体育祭や文化祭等の定番行事は決まった時期に開催されるし、運動部の全国大会進出もそれなりにある。

 治安も悪いという話は守自身も今まで聞いたことが無い。至って平凡な高校だろう。

 しかし、煌彩瞳の出現により平凡プラスαくらいには昇格したのではなかろうか。顔面偏差値が彼女と一般生徒では天と地ほどの差があるため学校内ではよく目立つ。

 そんな銀髪探偵を連れて校内を案内していれば当然守も目立つ訳で、どこに行っても周囲から視線を集めている。


「おや? 守じゃねえか。美少女と学校デートですかい?」


 隣のクラスを通りかかったときに同級生で友人の吟宮柊おとみやしゅうに開口一番冷やかされた。


「そんなんじゃない。煌さんは今日転校してきたんだよ。だから案内してるの」

「知ってるよ~。美人だって学校中で話題になってるんだから。そんな美人と……羨ましいねえ、うん?」


(何だこいつ、うぜえ…)


 右手にスマホを持ちながら左手で肩を組んでくる吟宮にダル絡みされた後、今度は別のベクトルで面倒な人物と遭遇した。


「君が噂の転校生か。確かに顔はどこかの国の姫のように整っている…が、しかし! 十七夜高校のアイドルの座は絶対に譲らないよ」


 本高校のアイドルと呼ばれている京悠人かなどめはると。有名俳優に引けを取らない程に美形な男で、美男子とは京のためにある言葉なのではと感じる位。京のファンクラブも存在しているようで、生徒会長や後輩も所属しているという。イケメンはチヤホヤされていいよな、と守は心の中で毒づく。

 守と京は同級生ではあるものの、クラスも違いそこまで普段の生活で関わりがないので、とりあえずは無視した。彩瞳も無視していた。明後日の方向に目を向けながら。


 生徒会室の前まで来ると、生徒会長の冥府瀬藍花よみせあいかが丁度部屋から出てくるところだった。生徒会所属で同級生の晌神楽まひるかぐらも積み上がった書類を両手で持っていた。


「冥府瀬先輩」


 守は気軽に声をかける。生徒会長の冥府瀬はミステリー研究部の部員で守とは交流があった。前述のとおり、京ファンクラブの会員でもあるので掛け持ちというか兼部である。


「乙鳥君。何だか最近ミス研で顔を合わせてないから久しぶりね」


 黒い前髪をかきあげて冥府瀬はそう言った。


「ええ、そうですね。先輩も生徒会で忙しかったでしょうし」

「うわ、乙鳥がレディを侍らせてる」


 晌から凄い言われようだった。


「表現に悪意があるな晌さんや」

「そうじゃないの?」

「真面目な顔で訊いてくるんじゃない。学校の案内をしてただけだから」

「…彼女が噂の転校生か」


 冥府瀬が彩瞳の前にずいっと迫り全方位から見回した。

 他人からじっくり見られることに慣れていないのか、彩瞳は頬を赤らめて目玉をぐるぐるさせていた。


「噂になるのも納得だ。容姿がとても優れている」


 ちなみに冥府瀬も美人系統で男子生徒からの人気は高い。生徒会長立候補後の最後の投票では九割が男子生徒だったという。守は顔を見知っているからという単純な理由で冥府瀬に投票した。決して下心から来たものではない。


「あ、ありがとうございましゅ…」


 容姿が優れた人に「容姿が優れている」なんて褒められてしまえば当然照れてしまう。彩瞳はタコのように真っ赤になっていた。おまけに噛んだ。

 やはり本当に彼女が探偵という職業に就いているのか疑ってしまうのが守の本音だ。

 その後、「じゃあ私は仕事があるから」と冥府瀬は、晌と共に職員室の方へ消えた。


 ~~~


 大方の案内を終えた守は教室に戻って自分の席へ落ち着くと、再び窓際の特権"心地良い風"を浴びながら彩瞳の動きを思い出していた。

 兎に角彼女はとびぬけてドジで不運だった。廊下の何もないところで突然躓いたり、中庭を通った時に彩瞳の頭上に鳥の糞が落ちてきたり。なかなかに酷い有様だった。

 学校全体に不運が降りかかってないと考えれば平和かもしれない。守が目撃している限り、不運が発動する対象は本人のみだ。守は被害を被っていない。


(そこまでワトソンが考える必要は無いってことでいいのか…?)


 守が彩瞳にとってのワトソンである限りは降りかかってくる不運に対しても覚悟している。勿論油断は禁物なので気を緩めないようにする必要がある。


「な~に。朝に続いてまた凶器に例えてんの?」


 未華が話しかけてきた。会話の始まりが物騒すぎるが平常運転である。


「いや、密室トリックかな」

「ゴールポールは難しいでしょ」

「そりゃ無理だよ」


 暖かい風が吹き込む。とても平和でいつも通りの日常だった。

 しかし守の心中は少しずつ穏やかではなくなってきていた。

 胸騒ぎ。あの喫茶店にいたときにも感じた胸騒ぎがここに来て守を襲っていた。あのときの嫌な予感は、見事に最悪な形で的中してしまった。この胸騒ぎがはまた悪いことが起こる前兆かもしれない。またもや守は杞憂であってくれと空にいるであろう神に簡単に願った。

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不運探偵は今日もビビりながら推理する MOGIMOGI @MOGI-P

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