第10話

「俺、ホノちゃんとこうなる前から少し考えてたんだ」


「…別れたいって?」


「うん、そう」


「そんなのずるいよ、マコちゃん…」


「……」



不思議と涙は出なかった。


私の中には悲しみよりも怒りの方が大きかったのかもしれない。



「自分が浮気したからこうなってるのにそれより前から別れたかったって、さも自分の浮気が別れのきっかけじゃないみたいな言い方してさ」


「……」


「浮気をなかったことにして、それで私に“別れる”って言わせず自分が言うなんてずるくない…?」


「なかったことにするつもりなんてないよ」



そりゃそうだろう。


好きなんだもんね?ホノカのこと。



やっぱり私は二人にとってきっと部外者だ。


でも今はどうだろう。


部屋に私とマコちゃんしかいなくて話をしてるこの今は、私は本当に部外者と言えるんだろうか。



だって私とマコちゃんの話を私とマコちゃんがしてるのに、その私が部外者っておかしくない…?



「全てを終わらせて、」


「ならどうして一度も謝らないの?」


「……」


「ホノカは謝ってきたよ?“ごめん、別れてほしい”って。なのにマコちゃんは謝らないの?前から別れたかったから、今回の件は自分は悪くないと思ってるの?私がここを出て行けば本当にそれで“全てが終わる”と思ってんの?」



自分は彼女の友達と浮気しておいて、別れの言葉すら自分が言うなんて勝手にもほどがあると思う。



「ホノカのことはきっかけにすぎないよ…ホノカと俺がこうなってなくても、俺はカヤとは別れてたと思う」



“ホノちゃん”が急に“ホノカ”になったのは何でだろう。



“ホノカ” “マーくん”



それは完全に私のいない世界だ…




「私がマコちゃんに何したって言うの…」





それからしばらく黙ったマコちゃんは、ずっと持っていた私の財布を真後ろの机を振り返りそっと置いてまたこちらへ向き直った。



「…カヤはさ、頑張ってると思うよ。前働いてたレストランが潰れてからはただのカフェのバイトだけどさ、やりがいは絶対それなりにあると思う」


「急になに?」


「でもさ、いつまでバイトのままでいるの?」


「えっ…?」


マコちゃんの私を見る目が少しだけ軽蔑するようなものになっている気がして、私は思わず言葉に詰まった。



「二十六にもなってバイトはどうかと思う」


「いや、」


「繋ぎなら分かるけど、もう今のバイト始めて二年じゃん。それに接客業なのにいつも土日に休み希望出すとか向こうも迷惑だよ。てか、就職先探す気あった?」


「待って、違う!!私はこの先のマコちゃんとのことを考えてバイトにしたんだよ!?」



マコちゃんの軽蔑するような目は変わらなかった。



「…………俺?」



だから何となく、私のこの言い分は口にしたところで受け入れてはもらえないんだろうなと思った。

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