第9話

「マコちゃんは私に話したいこととかないの…?」


「……」


「それでもう出て行けって、この六年ってそんなもんだったの?」


「……」



何黙ってんの…



きっともう何もかもが無理なんだろう。


マコちゃんの冷静さがより私にその現実を突きつけていた。



「…もう決定なの?」


「うん…別れよう、カヤ」



三度目…



「マコちゃんの好きなプリンを買ってきた私に別れようなんてよく言えたよね…」


「プリンは関係ないよ」


「んなこと分かってるよっ…!!!」



私は大きな声でそう言って左手に持ったままだったプリンをコンビニの袋ごとマコちゃんに投げつけた。


ゴトッと鈍い音と共に床に落ちたその袋に、マコちゃんはゆっくり体を屈めて手を伸ばしていた。



「マコちゃんが“ついでに俺にも何か買ってきて”って言ったんじゃんっ…」


「……」


「だから私はわざわざ一番近いコンビニじゃなくて駅前の方まで行ってマコちゃんの好きなプリン買ってきたんじゃんかっ…」


「……」


「なのに帰ってきて早々別れようって意味分か」


「はい」



私の言葉を遠慮なく遮ったマコちゃんは、袋に一緒に入っていた私の財布をこちらに差し出していた。



床に転がったプリンはそのままだった。



どうやら今のマコちゃんは、プリンにも私の話にも興味がないらしい。


私は差し出された財布を見つめたままで、どうしてもそれを受け取るために腕を上げることができなかった。



「ほらカヤ…カヤの財布」


「……」


何となく、それを受け取ったら何も分からないままもう全てが本当に終わってしまう気がしたから。




一向に財布を受け取らない私に、マコちゃんは少しうんざりしたように「はぁ、」と深いため息を吐きながら財布を差し出す右手を下げた。


何なの…



「あとこの際だから言うけど…俺このプリン特別好きなわけじゃないよ」


床に転がったコンビニ袋を見つめながらそう言ったマコちゃんの声には心が込もっていなかった。


この際ってどの際だよ…



「前食べた時は美味しいと思ったから美味しいって言っただけで、他のプリンと大差ないと思う。もっと言えば俺プリンそこまで好きじゃない」


「……」



“プリンは関係ない”と言ったのはマコちゃんなのに、私はそれを聞く必要があるんだろうか。




「…話を戻そう」


そう言って私の話したいことでもないその話を勝手に広げて勝手に終わらせたマコちゃんに、私は心底腹が立った。

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