驚愕

「飯はいい」


「え?」


「腹減ってるか?」


「あたしは大丈夫…」


「じゃあもう寝る」



余程疲れているようで、正直あたしも疲れ果てていて、このまま寝れるのは有り難かった。



シングルベッドに大人が二人並んで寝るのは窮屈で、必然的に寄り添って寝るようになる。



「もっとこっち来い」


「狭くないですか?」


「良いから来い」


腕を引き寄せられ、腕の中で抱き締められる。



「寒くないか?」


「はい」


「明日この町を出る」


「…え?」


聞き間違いかと思った言葉は、見上げた顔を見て真面目な話しだと理解した。



「どうして…」


「カタギになる」


「どうして急に…」


「急じゃない。前から考えてた事だ」


「いつから…?」


「三年前の今頃か」



あたしと出会った頃には、別れる運命だったとゆう事…



行かないでなんて、口が裂けても言えない。


あたしはこの人の何者でもない…



「だから今日、会いに来てくれたの…?」



最後だから…?


そんなところに、愛しさが込み上がる。



「一緒になるか?」


「え?」


「俺と一緒に来るか?」



見下ろされた視線に、胸が高鳴る。



「俺はおまえと一緒になりたい」


「…それ、あたしが断ると思ってないでしょ…」


「さぁな」



胸に顔を埋めると、強く抱き締め返してくれる。



「サナ」


「え?」


「愛してる」



初めて呼ばれた名前…



「シンさん…あたしの名前、知ってたの?」


「知ってておまえに近づいた」


「…え?」


「おまえが欲しくて近づいた」


「え…」


「おまえが中々 ほだされねぇから。通い妻みたいになったろうが」


「だって…知らなかった…」


「……」


「わたしも好きになっていいの?」


「もう好きになってんだろうが」


「なってる…」


「じゃあ良いじゃねぇか」



そう言って笑った男は、更にこの3年後…



本当にあたしを妻にした。



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とんでもない奴 リル @ra_riru

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