第81話

「1人になれば、どうしても小さい頃の自分を思い出す⋯。そしたら女を適当に見つけてる⋯」


「⋯矢島君」




矢島君が、ゆっくり顔を上へと上げてきて。

男にしてはまつ毛が長く、綺麗な二重の瞳が、私を見つめてくる。




「この前、夢があるかって聞いたろ」


「⋯⋯うん⋯」


「あるよ、無いわけじゃない⋯」


「うん」


「好きな奴と結婚して、子供が出来て。公園行って遊んで、嫁が作ってくれたお弁当みんなで食べて「美味しいな」って言うこと」



矢島君の夢。


私が何度も小さい頃、した事があることで。



ありきたりな出来事が、矢島君にとっての夢。




小さい頃、ずっと1人だった矢島君には、できなかったこと⋯。



泣きそうになった私は、矢島君の近づく気配に気が付かなくて。

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