第80話

「薫なんか特にそうだ⋯」



橋本君?



「あいつは優しすぎる⋯」



優しすぎる⋯。




矢島君は包帯を留めた。手当てが終わった足。




「どうして彼女を作らないの? その彼女も橋本君みたいに、申し訳ないって思うから?」


「それもあるけど⋯」


それも?




「俺、マジでモテるんだよ⋯」


普通ならイラつく言葉なのに。

綺麗な顔をしている矢島君が言えば、全く嫌味に聞こえなくて。

それほど、人間離れした容姿をもつ男。




「俺が特定の女を作ったら、他の女に絶対目付けられて、いじめられる」



いじめられる⋯?



「守ってあげればいいじゃない⋯」



私の言葉に、矢島君は乾いた声で笑った。




「女っつーのは、庇えば庇うほど、嫉妬する生き物なんだよ」


「⋯」


「24時間?365日見守る?ムリだろ」


「⋯」


「つーか、そこまでして守りたい女とか、いた事ねぇよ⋯。好きになるってなんだよ⋯」



異性を好きになる事が、分からない。

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