第75話

「あ、⋯や、矢島君⋯」


血を洗い流した私は、どこにいるか分からない矢島君を呼んだ。


タオルを借りようと思ったけど、まだ血が止まらなくて。




「―――なに?」


すぐそばにいたのか、矢島君は扉をあけて。




「あ⋯血が⋯止まらなくて」


「⋯⋯」


「タオル汚しちゃうし、ティッシュとか無いかな⋯?」



もしなければ、破れてしまったストッキングを使おうかと悩んで。


顔を顰めた矢島君は、傍にあった棚からタオルを取り出し、私にそれを差し出す。



「使えって言っただろ」


「よ、汚れるから!」


「ティッシュが傷口に入ったらどうすんだよ」



それはまた洗い直しになるかもだけど⋯。



「そういう面倒臭いのいいから」



面倒臭いのいいから?

⋯はあ?


タオルを汚さないためなのに、面倒臭いってなに?

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