第72話
私服姿の矢島君が、私の視線に合わせるようにしゃがみこみ、「大丈夫か?」と、絶対に会いたくなかった私を心配してくれて。
「⋯矢島君⋯」
矢島君は体を起こすと、私に手を差し出してきて。
「立てるか?」
細くて長い指が、私に向けられる。
私は無意識に、その手に自分の手を重ねていた。
矢島君はぎゅっと私の手を掴むと、そのまま手を引き、私を立ち上がらせてくれて。
すごく痛む膝からは、血が流れ続けていた。それを見た矢島君は顔を顰め、「―――大丈夫じゃねぇな」と、ため息をついた。
「⋯マジでストーカー?」
「矢島君⋯」
「それ、やめろって言っただろ」
矢島君は私の手をひくと、さっきまで私が待っていた扉の方へと向かい。
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