エピローグ
※
「……フフッ。想定以上の結果だ」
モニターに映る過去の夢の記憶。今回の客である「夢野」という少女の最初の罪を見返しながら、私はほくそ笑む。久々の逸材とご馳走を前にし、感情を昂らせずにはいられなかった。
「あの『白石』とかいう少女の空間。あの年齢でありながら高品質を保つとは素晴らしすぎる。夢は歳を取る度に味が劣化するものですが、相当ピュアなお方なのでしょう。是非とも口にしたいものだ。上部に提出するのが惜しい」
思わず溢れる涎を拭いていると、突然扉がノックされる。返事をすると、クマの着ぐるみがタブレットを持って部屋に入ってきた。
「……そうか、もう時間か。繋いでください」
着ぐるみは頷き、端末の電源を入れる。画面いっぱいに広がるスノーノイズ。そこから、十秒と経たないうちに画面が切り替わり、私と同様に獏の顔をした男––––社長の姿が映し出される。
「……昨今の状況は如何かな?」
「は、順調でございます。それも先日、逸材が二つも手に入りまして」
「ほう……逸材とな。詳しく教えてくれたまえ」
「十七年の歳月を迎えながら本来の純粋な状態で保存され続けた〝夢〟、そして今後新たな活躍が期待できる〝夢狩人〟。後者は元来底知れぬ野心をお持ちであるゆえ、想像を超える吸収量を期待できます」
「成る程、〝夢を狩るモノ〟を渡したのか。他者の夢を狩るのと同時に持ち主の夢までも吸収する、我が社史上最悪の商品。提供の際には相手を選ぶ代物だが……うむ。実に見事な選択だ」
「ありがたきお言葉」
最大限の敬意を伝えるべく、深々と頭を下げる。
「報酬として、此度貴様が得た夢の一部を譲ろう。今後も顧客の監視と、我が社の貢献を怠ることのないように」
「は。勿論でございます」
そう返すと、社長を映す画面がプツンと切れる。賞賛された上に、白石の夢の一部まで頂けるとは、何たる幸せか。更なる昇格も期待できるだろう。
私は別の画面––––夢野の現在の様子を映す画面に目を移す。出会った時とは全く違う、空虚な瞳にやつれた顔。そして、その代償として得たのであろう洗練された動き。対象の夢の空間に、次々と傷をつけていた。
「まさか家族にすら手をかけてしまうとは……いやはや末恐ろしい」
その光景があまりにも滑稽で、笑いが止まらない。幸せな夢は甘くて美味だが、他人が苦しむ悪夢も酒の肴として絶品なのだ。
我々は、夢の管理場『メア』。
夢にまつわる魔法具で人を釣り、被害者と加害者の両方から夢を吸い取る会社。
そして、夢の監視と捕食を生業とし、現代社会で行き場を失った獏の、最後の砦。
故に、如何なる失敗も許されない。
たとえ誰が相手であろうと、だ。
メア 早河遼 @Hayakawa_majic
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