第72話

「若月君、とうとう着工だね。おめでとうございます。」


綺がオフィスにデザイン事務所から預かった花束を持って入ってくる。


「ありがとう、立派な花束だね。」


彼女からそれを受け取ると花の爽やかな香りが掠める。


「凄く楽しみ。出来上がった校舎で生徒たちが楽しく学校生活を送るの毎日妄想してる。勉強をして恋をして……、」


そう言っていた綺は我に帰るように俺から視線を外す。


「過去を思い出すのはそれぐらいにしたら?」


俺はそう言いながらデスクに花束を置く。


「う、うん。わかってるよ?今は幸せだから……。」


綺は照れくさそうに言う。


「そう思ってくれるなら話は早いな。」


そう言うと綺は俺の方を向く。


「なに?何か話があったの?」


「俺が設計した学校に2人の子どもを入学させてみない?」


綺の涙が一筋頬をつたう。

それがとても綺麗だった。



「あ……、指輪準備してたのに家に忘れた。」


……こんな大事な場面で何やってんだろ。


「……今晩、その指輪見に行ってもいい?」


「もちろん。」


綺の表情は笑顔になっていた。


密かに思う。


君は俺の家に来るってことは今夜は帰して貰えないってことなんだけどね。


END

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Hit Me【完】 うすい @adamu516

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