6→また恋を始めます

第6話

藁花わらはな?!」

柏木かしわぎ?!」


大手新入社式で小中高と同じ人間に此処ここでも会うなんて思っても見なかった。


〔…俺は好きじゃない…〕


それも苦い思い出がある男子が男性になって私の前に座ってるなんて…なんて世間は狭いんだろうと思う。


「これからも精進してのし上がっていって欲しい。よろしく」


新入社式が終わって明日からこの会社の一員になる。

堅苦しいスーツが脱げるから良いとしてどうか一緒の部署じゃない事を願う。


「おいっ!」

「んっ?」


前から呼ばれて頭を上げたら近い所に顔があって慌てて離れた。


「これから飲みに行かねえか。久しぶりなんだし」

「あっー…パス。“アンタ”は、別の女性を誘って〜」


二度とあんな思いしたく無いから引き攣りながらも笑って手を振った。


「柏木だから呑みに誘ってるんだけど?」

「!!」


その殺し文句ストレートに言ってるからほらっ、側にいる女性達がざわめいてる。


「藁花…同期になるけど私に関わらないで」

「……」

作り笑いして立ち上がった。

藁花がどんな顔をして私の背中を見つめてるなんか想像もつかなかった。


そんな新入社式から早七年の月日が流れて私達は全くという程交わらなくなった。


「この書類計算間違ってるわよ?」

「えっ?すいません!今すぐに作り直します!」


七年の間に部長に昇進して更に忙しくなった。

藁花の噂はフロアを跨いでも聞こえてくる。


「藁花部長、今度は…」

「藁花部長の彼女になりたーい」


藁花も部長に昇進したと噂で聞いた。

そのお祝いに同期同士の呑みがあったけど不参加にした。

同期同士の呑み会に誘われるけどいつも断ってる。

藁花に会う事を避けてるから。


「七年も避けてるなんて…」


明日は私の誕生日。


〔柏木とここまで一緒だと将来も一緒?〕

〔えっー…やだ。私は藁花と違う人と将来一緒になります〕


そんな会話んしていたら他のクラス男子が聞いていてあの“言葉”を吐き出された。


「部長、お先でーす」

「お疲れ様」


皆が帰っていく中私は一人パソコンに向かってる。

誕生日が仕事に追われてるってなんか良いな。

こうやって何年も追われて来た。


「んっー…。帰りコンビニでケーキでも買って帰ろうかな」


伸びをしてボソッと呟いたら言葉を返された。


「なら、俺と呑みに行くか?」

「えっ?」


頭を上げたら七年ぶりに視線が交あって一瞬固まった。

慌てて姿勢を戻して藁花に向き合った。


「!!」

「プッ。これが冷静沈着な柏木部長ですか?」

「……っ!藁花部長っっ!どうして此処に?」


オフィスに私達二人きり。


「今日、誕生日だろ。一人きりで祝うの寂しくないか?」

「!!大きなお世話!私に関わらないでって言った筈!」


七年ぶりに声をかけられて舞い上がる程嬉しいのに口から出た言葉はキツイ言葉。


「相変わらずだな。柏木は」

「藁花部長さんもですけどね。さぁ、帰った。帰った」


シッシッと手で追い払う仕草をして顔はパソコンの方を向いた。

これ以上は私の気持ちがバレてしまう。


「まだ、終わらないの?」

「…まだです!当分終わらないので。彼女が待ってるんじゃないんですか?」


カタカタと分かりやすく打って早く去れと威嚇するとははっと笑って私のディスクに珈琲を置いた。


「柏木部長、待ってるからね〜」

「結構です!」


藁花は手を振ってオフィスから出て行った。


「待ってるからね…なんて嘘ばかり…」


私を喜ばせようとしたってそうはいかないんだから!と思いつつ急いで仕事を終わらせて鞄を持ってオフィスから出て足を止めた。


「……っ」


オフィスを出て廊下の椅子に眠りかけてる藁花の姿が見えて息が止まった。


「藁花…。どうして…?」


私は七年前も今も貴方にキツイ言葉を投げかけてる。

同期の呑みにだって一回も行ってない。

貴方に会うのが怖いから。


「んっ…。あっ…終わった…?」


眠たい目を擦りながら起きた藁花。


「うっ…うん。終わったけどどうして此処にいるの?彼女は良いの?」

「待ってるって言っただろ?それに彼女なんて昔から居ないぞ?」

「えっ?だって噂で彼女いるって…」


噂で彼女いるから避けてたのもあった。


「好きな人が彼女になったんだろ」

「…そう…」


好きな人がいるのね…。

七年も小中高で隣で見て来たのに何にも気付かなかった。


香苗かなえ、行くか」

「えっ?今…名前っ…!!」


私の名前を七年ぶりに言ってくれた事に嬉しくって無意識に笑顔になった。


「……っ」

「?藁花…?」


藁花が黙って私の前まで来て私を抱きしめる。


「そんな笑顔、反則だ。香苗」

「藁花っ、こんな所見られたら…大変だよっ」


慌てて腕の中から抜けようとしてるのに抜けれない。


「香苗、好きだ。香苗が好きなんだ」

「えっ?」


今、藁花は私に“好き”って言ってる?

私の耳が遠くなってそう聞いてるだけだよね?


「藁花はっ…和人かずとは…」


忘れた事は無い。

私の目の前であの言葉を言った事。


「私が好きじゃないって言ったじゃない!そんなの信じられない…」

「…あの当時の事言ってるのか?」

「…そうだよっ……」


涙が溢れて止まらなくなった。


「だから私に関わらないで!私を好きなんて嘘に決まってるんだから!!」

「俺はあの時から香苗が好きだ!!」


また、嘘ばっかり言って。


「お前の誕生日に何度声をかけようと悩んで今に至る俺の気持ちも考えろ!」

「そんなの…嘘だぁ…」


和人がそこまで考えているなんて信じられないけど、椅子に少ししなびれている花束が置いてある事が本当の事を語っている事に思えた。


「香苗。お前と将来添い遂げたいと思ってる」

「…私は…和人と違う…」


と言おうとしたら唇を塞がれた。


「んっ…」

「俺以外と添い遂げるって言ったら問答無用で俺の鎖でそのまま縛るぞ。香苗」

「…その言葉を本気にしていいの?」

「俺の気持ちに答えてくれるんだろ?」


お互い視界が混じり合って笑ってもう一回キスをした。


「携帯が鳴ってるよ」

「どうせ同期の呑み会だよ。香苗、なんで来なかったんだ?ずっとお前が来るの誰よりも楽しみにしていたんだぞ?」

「…和人に会うのが怖かったから…」


和人にまた拒否られたらどうしょうと悩んだ。


「拒否したのは謝るけどあの当時は照れ隠しって分かるだろ!」

「分かる訳ないでしょー!!」


今思うと照れ隠しって分かるけどさ。


「同期の呑み会?私初めて参加しようかな〜」

「じゃあ、皆んなに祝って貰えよ。その後抜けて俺と二人きりで祝おうな」

「…バカっ」


和人が手を差し出すから笑顔でその手を掴む。


「和人」

「んっ?」


耳元で囁く。


「ずっと愛してました。これからもよろしくね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸せな結末は自分で勝ち取る!! @B4RS

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ