スーサイド
須藤美保
第1話
私は、普通通りに学校に登校したが、2時間目の大嫌いな数学の授業をサボって、学校の校舎の屋上から、飛び降りた。
死んだ後に、色々憶測されるのが嫌だったので、遺書をノートに事細かく書いて、自分の部屋の机の上に置いて学校へ登校した。内容は、10ページ以上に及んだ。
学校の屋上を選んだのには、理由がある。同じクラスの生徒からのいじめ、先生からのパワハラ、学校に対する不満があったからだ。
何故死を選んだのか?人生に疲れきってしまったからだ。
小さな頃から憧れたセブンティーンは、絶望しかなかった。主な理由を上げるとしたら、本当は、それだけかもしれない。
一番に困る事、それは、この事態が失敗する事だ。学校の校舎は、4階建てだった。
私は、失敗がないように、自分の首にロープを巻き付け、ロープの端は、柵に巻き、縛った。落下だけで死ねなかった時に、首を吊られるようにするためだ。
そして、いよいよ実行した。
ダッシュで校舎の屋上を駆け抜け、宙に舞った。雲一つ無い快晴だった。
今、何故この一人で行った行為を説明出来ているかと言うと、残念な事に、失敗してしまったからだ。
飛び降りた場所にちょうど生け垣があり、クッションの役目を果たし、ロープは、首が吊られる程短くはなかった。計画が甘過ぎた。
私は、すぐに救急車で、病院に搬送されたらしい。
あちこち、骨折して頭を打っていたせいか、3日間、目を覚まさなかったらしい。
目を覚ました時、私は真っ白な天井を見つめ大声で泣いた。泣きじゃくった。失敗した事に。まだ生きている事に。悔しくて悔しくて泣いた。
でも、同時に分かった事があった。死=無なんじゃないかということ。
この、目を覚まさなかったという3日間、全く記憶がない、夢も見ていない。今は痛む、身体のあちこちも、痛くなかった。
気が付くと3日間経っていた。死は、怖くないと感じていた。
私は、身体中に付いた管全てを抜いて、ベッドから起き上がり、骨折している右足を引きずりながら、窓を開けた。ちょうど病室には私、一人だった。
外を覗くと、学校の校舎より高い気がした。また失敗するかもしれないけれど、窓枠に、足をかけた時、病室の扉が開いた音がした。構わず私は、飛び降りようとしたが、身体を強い力で掴まれた。
「もう、やめなよ。どうせ助けるよ」
私の身体を掴んだ男性の声がした。私はもがいて、窓に向かう。
「遺書も読んだ、気持ちもわかる。でも君が死ぬ必要はないよ」
私は、窓の下に踞り茫然とした。そして頷くと、窓枠から、飛び降りた。
もう自分の居る場所は、わかっていた。最初に運ばれた病院の病室で、両手足を拘束されていた。
瞼を開くと両親が、顔を覗いていた。
「ほらね、助けた」
私の身体を掴んだ男性の声だった。白衣を着ている。医者だったんだ。
私は何も言わずただ、天井を見つめた。両親が何か言っていたが、何も耳に入ってこなかった。
「まだ、生きてるよ、現実で」
そういった彼は、私の頬に流れる涙を拭き、
「俺が一生守ってあげる」
と言った。プロポーズみたいと思いながら、私は瞼を閉じた。
自分の未来が見えた気がした。私の寿命は、そんなに短くないんだと、思いしった。
「俺が側に居るから、ちゃんと18歳になって」
「どういう意味?」
私は病室で、はじめて声を発した。その声は、聞き取れない程掠れていた。
「明日は、君の18歳の誕生日だよ」
彼はハッキリそう言った。私のセブンティーンは、もう終わっていた。
3ヶ月も眠っていたのだ。その実感は、無かった。やはり、無、だった。
「先生なの?」
私が聞くと、
「そう、君を2回助けた」
「恩着せがましい」
「はは、だって本当の事だよ」
両親は、黙って私たちの会話を聞いていた。それまで立って話していた彼は、近くに椅子を持ってきて、座りまた話しはじめた。
「君の告白のおかげで、転校した生徒や解雇になった教師が、たくさんいたそうだよ。新聞や雑誌にも取り上げられた。君はこれからどうするつもり?」
「死しか、考えてなかったから、わからない。私って、高校卒業出来るのかな?」
「追試の形で、テストを受ける事になるって。出席日数もなんとかするって、学校の先生は言ってた。状況が状況だから」
「高校は、卒業したい」
「ねえ、俺の事、覚えてない?」
「え?」
「はしけい、橋本圭太」
「え?はしけいなの?」
私は、彼の胸に付けてるIDと顔を交互に見て言った。昔私の住んでいた町のガキ大将のような存在だった。彼の弟が、私と同じ年で、自転車の乗り方を教えてもらったのも彼だった。目元の辺りは、変わらない印象だった。私は、声を出して笑っていた。
「はしけいが、医者になれるんだ!私何にでもなれそう」
「なんだよ、やっと喋れるようになったかと思ったら、失礼だな!」
「弟は?」
「カナダに留学中」
「そうなんだ」
「俺、さっき、プロポーズしたつもりなんだけど」
「え?この状況で?どうかしてる」
「君が運ばれて来た時、すぐにわかった。俺の初恋の人だって、絶対助けるって思った。もうご両親には伝えてあるよ」
両親は頷いていた。
「わかった。いつになるかわからないけど私と結婚してください」
そういうと私は長い眠りにつくように、静かに目を閉じた。
おわり
スーサイド 須藤美保 @ayoua_0730
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