私と後輩

「ふぅ.........。これで、よし。」

今日やる分の掃除やら何やらを一通り終える。時刻は午後4時だった。

窓の外の景色を見る。綺麗な、綺麗な、夕焼けだった。そんな美しいものを見ても、私の心に浮かぶのは、あの子と一緒に見たいなぁ、という感想。古町小雪ちゃん、私の大学時代の後輩。私の大好きな人。


小雪ちゃんは、私とは別の意味で、正確には、対極の意味で、普通じゃない。私は、この世界で、生きていくのが本当に、本当に下手な人間だ。何も、出来ない。怠惰で、無能な人間。それが、私の押された烙印。それに対して、小雪ちゃんは、きっと本人も正確には分からないほど、強い人、とっても、かっこいい人。でも、それがあまりにも強すぎるから、小雪ちゃんは強すぎるから、自身の才を、憎んでいた。そんな小雪ちゃんに、未だ、その才を使わせているのは、この私。そんな酷い私のために、あの子は今日も頑張っている。


かつて、私が壊れて、あの子に助けてもらって、それから少しして、同棲し始めて、私の心が安定し始めた時に、聞いたことがあった。私のせいで、小雪ちゃんは苦しんでしまうのではないかと。すると、小雪ちゃんは、

「大学生の頃、ボロボロになっていた私に、先輩は救いの手を差し伸べてくれました。あのとき、先輩に救ってもらっていなかったら、私はもう、とっくに死んでますよ。先輩のおかげなんです。この命は先輩のおかげであるんです。だから、恩返しさせてください。先輩のこれからを、ずっと、支え続けさせてください。私は、大好きな先輩が居てくれるだけで、幸せなんです。むしろ、先輩がいてくれないと、こんな世界にいる必要はないです。先輩、私は先輩のおかげで、もう、辛くないです。だから、先輩。大丈夫ですからね。」

と、言って抱きしめてくれた。

私は、人の感情を読むことが出来る。文字で読んだり、聞こえるわけではなくて、ただ単に、異常な鋭い感覚を持っている。その感覚があったから、ずっと、苦しかったのだが、その感覚のお陰で、小雪ちゃんのその言葉が、心からの本心だと分かった。


自惚れでも何でもなく、単なる事実として、きっと、私がいなかったら、本当に小雪ちゃんは死んでいたのだと思う。心だけではなくて、本当に、その体ごと。だから、私が命を救ったというのは、事実なのだろう。だが、もし、それが私ではなくて、他の人が小雪ちゃんを救っていたら?

そう、きっと、小雪ちゃんは、もっともっと、その才を存分に振るえてたのだと思う。

私は、魔女。人を堕落させ、怠惰にさせる才を持つ。きっとこの世界で多くの人を幸せにする力を持っている小雪ちゃんを、私という存在に依存させて、こちらの世界に、二人だけの世界に、ずるずると引きずり込んだ悪い、悪い魔女。だけど、そんな悪い魔女に誑かされないと、あの子は生きていかなかった。

ただの運命。とっても素敵な運命。

でも、そんな私の、醜い心を隠したまま、小雪ちゃんに向き合いたくなかった。だから、ある日、私は自身の心を打ち明けた。小雪ちゃんは、優しく聞いてくれた。小雪ちゃんは、私の言ったことも、確かに正しいのかもしれないけれど、小雪ちゃんは、ただ純粋に、私という存在と恋に落ちることが出来て嬉しかったと言ってくれた。私という存在に、堕ちていくのが、幸せだと言ってくれた。いっぱい、いっぱい、私を肯定してくれた。そこにあったのは、単なる事実の列挙だった。私という存在が、こんな風にいてもいいんだという事実だった。

その日、私は心から、純粋に、彼女に、小雪ちゃんに、恋愛感情を抱いた。

そうして、その日の夜は、初めて夜の営みをした。お互いそんな経験は今までなく、初めてだったので、ギクシャクしたが、心も体も、初めて繋がった気がした。とても幸せな夜だった。

それからというものの、私も小雪ちゃんも、ずっと安定して生活出来ている。お互いに支え合って生きている。

ガチャリと、ドアが開く音がする。

(ああ、そうだ。今日は早いんだっけ...。)

そうして、玄関まで足を運ぶ。

「先輩!ただいま~!」

ああ、愛しい。本当に愛らしい。

「先輩......?」

小雪ちゃんを抱きしめながら、鍵を閉める。この、私たちの、二人だけの世界に誰も入ってこれないように。

「小雪ちゃん、さっきまでね、これまでのこと思い出してたの。」

私は、小雪ちゃんの荷物を持って、小雪ちゃんの手を引っ張って、近くの椅子に荷物をおいて、ソファに小雪ちゃんを押し倒した。

「私ね、本当に幸せなの。小雪ちゃんのことで頭がいっぱいなの。普段はね、暴走しすぎないように、抑えてるんだけどね、小雪ちゃん、小雪ちゃんの全部が欲しいの。食べちゃいたいの。大好きなの。」

きっと、小雪ちゃんは、私がどんなことをしても、必ず愛してくれるのは、知っている。だけど、それでも、もしかしたら嫌がられてしまうのではないかというような不安は、多少なりともあってしまう。だから、こんな風に、自分の堕落しきったダメダメな本性をさらけ出すのは、気が引けてしまう。だけど、たまには許してほしい。

「先輩、私もね、何でだか分からないけど、今日は普段に増して、ずっと先輩のことばっかり考えててね、私も暴走しちゃいそうだったの。だからね、遠慮しないでいいんだよ?私の全部、何もかもあげる。先輩が私に全部くれてるみたいに。私のこと、もっと、もっと、堕として......。」

私たちは、きっと、本当は、そっくりな人間なのだ。とっても、とっても似ている。だからこそ、気が合うし、お互いのことが良く分かる。

「ふふふ、ありがとう、小雪ちゃん。大好き。」

「先輩、私も、好き、大好き。」

小雪ちゃんは、きっと私に早く会いたくて、ここまで走って来ていたのだろう。だから、汗の匂いがした。

「先輩、ごめんね、ちょっと汗くさいかも...。」

「んーん、私、小雪ちゃんの匂い、大好き。」

そうして、欲望のままに愛し合う。途中からはベットの上で、何時間も、ずっと、ずっと。

二人で一緒に溶け合って、堕ちていく。

キスをして、お互いの体を絡ませて、体の隅々まで求めあって.........。



「痛たたた......。」

朝、体の色んなところの痛みと共に目が覚める。

「せんぱぁい、おはよー」

私と同じくらいに小雪ちゃんも目が覚める。

「先輩、だいじょ.........あっ」

私も、小雪ちゃんも、裸になって、ベットの上で抱き合っていたことに、小雪ちゃんは、今気付いたようだった。

「ふふ、恥ずかしいの...?」

「いや、それは、まぁ.........。」

「昨日はあんなに全力だったのにぃ?」

「うー、先輩、恥ずかしいからやめてくださいよぉ......」

小雪ちゃんは、普段は先輩呼びなのだが、夜の行為の時はたまに、下の名前で呼んでくれる。そして昨日は、小雪ちゃんも欲求のタガが外れていたのか、下の名前でたくさん呼んでくれた。それが本当にかわいくて、嬉しかった。ちなみに、普段先輩呼びなのは、下の名前で呼ぶのが未だに恥ずかしいからということらしい。

「あっはっはっ、まあ、その、それを言うと、私も昨日はごめんね、私、暴走しちゃって......。」

そう、昨日は本当にずっとしっぱなしだったので、晩御飯の時も、お風呂の時も、ずっとそういうことをしていたのである。

「いや、まあ、その、何ていいますか、普段はわりと私が攻めですけど、その、攻められるのもすごく良かったといいますか、何と言いますか......。.........また、今度するときも、激しくしてほしいと言いますか.........。」

と、言いながら、あり得ないほど顔を真っ赤にしてる小雪ちゃん。そんなかわいい小雪ちゃんを抱きしめながら、ほっぺにキスをした。

「ふふ、もちろんだよ。これからもたくさん愛してあげる。」

「ふふ、私も先輩のこと、たくさん愛してあげますからね。」

お互いに微笑み合う。

幸せな時間、二人だけの宝物。

ずっと、ずっと、一緒。

「先輩、大好き。」

「私も、大好き。」

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あの人に堕落させられたい 神田(kanda) @kandb

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