第55話

季節は駆け足で巡り・・・。

のぞみちゃんを引き取り、夏から秋へーー。



「いらっちゃいませ」


すっかり看板娘が板についたのぞみちゃん。

ピンク色の裾がふりふりのエプロンを身に付け、今日も、お客さんに屈託のないその笑顔を振りまいている。


のぞみちゃんが、家に来て、早いもので一月。

最初、おじさんたちになつくか、すごく心配したけど・・・


おじさんも、おばさんも、我が子の様に、のぞみちゃんをすごく可愛がってくれて。

いつもニコニコ笑って、優しく接してくれる二人に、のぞみちゃんの警戒心も徐々に薄らいでいったみたい。


今ではすっかりなついて、お店のお手伝いを喜んでしてくれるようになった。


看板娘ののぞみちゃんに会いに、毎日パンを購入してくれるお客さんまで現れて驚きの連続。お陰で、お店が繁盛して、おじさんたち嬉しい悲鳴を上げていた。


少しずつだけど、おじさんの手伝いをさせて貰う様になった。パンの生地を捏ね、グラムを計って、それを成形するーー。一連の作業を、一生懸命、僕に教えてくれる。


無口で、仕事には厳しいおじさん。

でも、褒めてくれる時はいっぱい褒めてくれる。だから、一緒に働くうち、僕に夢が出来た。通信制の高校に進学し、製菓の専門学校を目指し勉強して、いずれは、おじさんの跡を継ぎたい。



「ナオ、ここにいた」


鉄板に、丸く形を整えた生地を並べる作業をしていたら、海斗がひょっこり顔を出した。


「一樹、帰ってきたよ」


「本当⁉」


「嘘ついてどうするんだ。一段落したらおいで」


「うん、分かった」


一気にテンションが上がる。

週末には、必ず、帰省してくれる一樹さん。でも、ここ三週間は、忙しくて帰省してこれなかったから、会えるのがすごく、嬉しい。

でも、海斗に焼きもち妬かれそうで、ちょっと恐いかも。


「ナオ、それが終わったらいいよ。一樹さんの所に行ってあげなさい」


「でも、まだあるから」


「新婚の時期はあっという間だぞ。一樹さんの事、待たせるとかわいそうだろう」


おじさんにそんな事を言われるとは思ってなかったから、ビックリした。


白衣と、白帽を脱いで、おばさんにのぞみちゃんを頼んで、家に急いで戻った。



「一樹さん‼」


玄関で靴を脱ぐのもまどろっこしい。なかなか脱げずに苦戦していると、僕の名前を呼びながら、一樹さんが駆け込んできた。

そのまま、ムギューーッとハグされ、ギュッーーッと力強く抱き締められて。

ふわっと、体が宙に浮いたかと思ったら、リビングのソファーへ速攻で連れていかれた。


チュッ、チュッと一樹さんと、海斗の口付けが絶え間なく降り注ぐ。

くすぐったくて身を捩ると、ダメェーー!!と頬っぺたを膨らませて一樹さん。

三十歳になったのに、まだまだ子供で、甘えん坊さんで。そんな彼が可愛いくて愛おしい。


「一樹ばっかズルい‼」


焼きもちを妬いた海斗が、服の上から、胸の小さな突起を甘噛みしてきた。

もう、それだけで、ジンジンと体が疼きはじめた。


「このまましよう‼」って一樹さん。

ものすごく、目が輝いている。勿論、海斗も。


でも、その甘い雰囲気はあっという間に終わった。

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さみしがりやに降る恋は 彩矢 @nanamori-aya

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