第54話
最寄りの駅まで、電車で移動して、駅前でレンタカーを借りて、幹線道路をどんどん山に向かって進むと、中腹の開けた場所に、のぞみちゃんがいる、養護施設があった。
出迎えてくれたのは、渡会さんと、児童相談所の相談員。これからの手続きに関する説明を聞くため、一樹さんが二人と職員室に残り、別の女性職員の方が、僕と海斗を、のぞみちゃんがいる、保育室に案内してくれた。
「のぞみちゃん、おいで」
中では、十人ほどの子供たちが、小学生のお兄ちゃんや、お姉ちゃん達と、お絵描きをしたり、折り紙を折ったりして遊んでいた。
その中の、背の小さな女の子が、すくっと立ち上がった。クリクリした大きな目。癖っ毛の栗色の髪ーー写真で見た、姉さんの小さい頃に瓜二つ。
「のぞみちゃんに、会いにきたのよ」
職員の女性が笑顔で、声を掛けた。でも、のぞみちゃんは、押し黙って、じーっと、僕をただ見るだけ。
でも二、三分後ーー。
「のぞみの・・・パパ・・・!?」
ようやく口を開いてくれた。
「うん、まだ、正式にはパパじゃないけど・・・のぞみちゃんのパパだよ」
「やった‼」
みるみるうちに、溢れるような笑顔になった。
血の繋がりがあるというのは、不思議。
初対面でも、全然、そう感じないから。
「のぞみちゃん、海斗お兄ちゃんだよ」
海斗を紹介すると、のぞみちゃんは、興味津々の様子で見上げていた。
もともと海斗は、子供好きで。
あっという間に、子供たちと仲良くなって、一緒に遊び始まった。
「パパ、これ読んで‼」
のぞみちゃんを膝の上に抱っこして、絵本を読んであげたり、一緒に、おやつを食べたりして、時間はあっという間に過ぎていった。
「ナオ、その子が、のぞみちゃん⁉」
一樹さんが、渡会さんと保育室に入ってきた。のぞみちゃんは、彼の顔を見るなり急に怖がって、僕の背中に隠れた。
「のぞみちゃん、怖がらなくて、大丈夫だよ。彼も、パパの大切な人だから・・・ね⁉」
「ほんと⁉のぞみのこと、たたかない⁉おこらない⁉」
彼女の言葉に、胸が締め付けられそうになった。
職員さんから、一時、里親の元に預けられていた話しを聞いた。新しい環境に馴染めず、泣いてばかりいた事。自分達に一向になつかないのぞみちゃんにイライラした里親に酷い折檻を受け、すぐ、ここに戻ってきたこと。
一樹さんも、渡会さんからその話しを聞いてると思う。
「のぞみちゃん、おいで」
海斗が、のぞみちゃんを抱き上げて、一樹さんの所に連れていった。僕にしたように、じぃーーと、彼を見上げるのぞみちゃん。
一樹さんは、にこやかに笑って、彼女を見下ろしていた。
見た目は、大人だけど、彼、中身は子供だから。すっごい、甘えん坊なんだから。
大丈夫だよ、のぞみちゃん‼
「あたち、のぞみちゃんです」
「一樹です」
「一お兄ちゃん⁉」
「のぞみちゃんが好きなように呼んでいいよ」
良かった‼
同じ子供同士、何か、通じるものがあったのかも‼お互いに、自己紹介をして、のぞみちゃんの方から、一樹さんへ移動していった。
「良かったな、おじさんって言われなくて」
「五月蝿いな」
海斗に冷やかされても、一樹さん、機嫌良さそうで。
渡会さんや、職員さんたちも、ひとまず安心と胸を撫で下ろしていた。
「もう、かえるの⁉」
のぞみちゃんが急に泣き出した。
一樹さんと、しばらく、園内を散歩してて、下りたくないと駄々を捏ねて。
「のぞみちゃん、すぐ、また、会えるよ」
渡会さんが、優しく宥めた。
「ほんと⁉」
「お利口さんにしていたら、パパと、一樹さんと、海斗さんが迎えに来てくれるから。園長先生と待ってましょう」
「うん‼」
涙を手で拭いながら、一樹さんの腕の中から下りて、僕と海斗、四人で輪になって、指切りげんまんをした。
「のぞみちゃん、おりこうさんにしてる」
「パパたち、必ず、迎えに来るからね」
「うん、やくそく‼」
玄関で、バイバイと見送ってくれた時には、キラキラの笑顔が戻っていた。
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