第53話
それから、数日後ーー。
以前と変わらない、穏やかな日々が戻っていた。
あの騒動は、お店まで波及して、連日連夜、支援者の皆さんや、後援会の皆さんが、一樹さんの『義理の父』の、おじさんに挨拶にみえられて、大変な事になってたみたい。
おかげで、終業式が終わり、夏休みに入っても、海斗は、なかなか上京してこれなくて。
今日、ようやく、彼に会える。
「朝から、海斗、海斗で、俺の事は⁉」って、一樹さんに、焼きもち妬かれたけど、だって、すっごく、嬉しいんだもの。
一樹さんと、手を繋ぎ、三十分も前から、始発の新幹線が到着するのをソワソワしながらホームで待っていた。
海斗と合流したら、その足で、のぞみちゃんに会いに行く。そして、夜は・・・。
「お互い、忙しくてゆっくり出来なかったから、湖畔のコテージに一泊して、三人で過ごそう」って彼。
真摯な眼差しで見詰められ、一気に身体中が熱くなって、ドクンドクンと、心音が大きくリズムを刻みはじめ、心臓が飛び出るんじゃないかって思った。
「毎日、事務所に顔を出して、伴さんたちの手伝いや、お客さんの相手で、気疲れしているだろうからと、我慢していたんだ。だから、ナオに、いっぱい、甘えたいな」
彼の言葉は、女の子じゃなくても、飛び上がるくらい嬉しくて。彼の背中に抱き付いたら、跡が残るくらい、沢山のキスの雨が降ってきた。
ーまもなく、二十番線に電車が入ります
構内のアナウンスが流れ、暫くすると、シルバーに輝く流線型の新幹線がホームに滑り込んできた。
ゆっくり停車すると、ドアが開いて、沢山の人が下りてきた。その人の波に、彼の姿を探すと、真っ黒に日焼けした彼の姿が。
驚いて駆け寄ると、満面の笑顔で、
「毎日、店の前で、交通整理していたら、こうなった。ごめん、驚かせて」
って彼。
「本当は、僕がやらないといけないのに・・・僕の方こそ、ごめんね」
「そんな事ないよ。それより、ナオを抱き締めたい。おいで」
「うん‼」
一樹さんの手を離し、彼の胸元へと飛び込んだ。
「会いたかった‼」
本音を口にすると、ムギューーッと、強く、強く抱き締められて・・・。
それだけで幸せな気分に満ち溢れていくから、不思議。
「一樹もおいで」
一人ほっとかれた、一樹さん、子供のように拗ねていたけど、海斗に、手招きされ、大喜びで、僕の事、後ろから抱き締めてくれた。
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