第43話
こうして、
そして今日は彼と約束した当日である。そのため彼女は、朝からどうしても気持ちが落ち着かないでいた。
(厩戸皇子は夕方頃に
皇子曰く、今日は夕方頃に小墾田宮に行くので、稚沙は小墾田宮の門を出た所で待っていて欲しいと聞いている。
そこから少し歩いて行ったところに、
そして彼女は、今日一大決心をしていた。
例え報われない想いと分かっていても、それでも厩戸皇子に自分の気持ちを伝えよう。彼女はそう考えたのだ。
厩戸皇子には数人の妃がいて、その妃達をとても大切にしている。そんな中に自分が入れるとは到底思えない。
(でも自分の想いを伝えることが出来たら、きっと何かが変わる。そんな気がする)
そしてそういう事情があったので、今日は早めに仕事を終わらせてもらえるよう、他の女官人達へもお願いをしている。
そんな彼女の元に同じ女官の
彼女は文字は余り得意でないが、何分手先が器用なので、主に衣服の仕立てや、組紐を編んだりするのが、主な仕事であった。
ちなみに稚沙も、始めは興味本位でやろうとしたが、何分彼女は不器用だったため、余りうまくはいかなかった。
「稚沙、さっき宮に来た人が、この荷物を渡して欲しいって頼まれて……」
そういう古麻の手には、複数の書物が置かれてあった。恐らく小墾田宮に慣れてない遠方からきた者、直接彼女に渡してきたのだろう。
「あ、古麻、ありがとう。じゃあ中身を確認しておくね」
稚沙はそういって、彼女からその書物を受け取る。とりあえず後ほど中身を確認して、必要なら庁にも伝えておくとしよう。
「でも稚沙、今日は何かいつもと雰囲気が違う気がするけど、何かあったの?」
「え、それはどういう意味?」
稚沙は古麻からいわれた事がいまいち理解できず、思わず首を横に傾げる。
「だってあなた、朝から妙に嬉しそうにしていると思ってたら、その後しばらくして急にソワソワし出すし……」
恐らくそれは彼女が厩戸皇子の事をひたすら考えていたので、それがそのまま表情や行動に現れていたのだろう。
(先日の
そういう意味でいえば、先日の椋毘登の忠告は確かだったようである。
やはり彼はちゃんと彼女を見抜いていたのだ。
「あ、ちょっと考えごとをしていただけよ。何か悩んでいる訳でもないから、余り気にしないで」
稚沙はそういいながら思った。とりあえずここは椋毘登を見習って、平常心でいようと。
「ふーん、まぁ確かに何か悩んでいる感じには見えない。なら大丈夫なのかしら?」
古麻は若干まだ気にはなっているようだが、元々余り他人に詮索をかけない性格のようで、これ以上聞くのは彼女も控えることにしたみたいだ。
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