第5話
(あら、もう来られてたんだわ!)
稚沙は炊屋姫とその人物を見つけるなり、すぐさま2人の元に駆け寄っていく。
そしてそんな彼女の足音に気が付いたらしく、2人も思わず稚沙に振り返る。
「
稚沙はとても嬉しそうにしながら、2人の元へとやってきた。
稚沙が厩戸皇子と呼ぶ人物は、炊屋姫の甥にあたる大和の皇子だ。
年齢は28歳で、皇子らしくとても質の良い服を来ており、常に凛々しい立ち振舞いをしている。
彼はとても正義感が強く、能力的にも非常に優れていた。
そして大変信仰深く、炊屋姫の亡き父親である
※波流岐広庭大王:欽明天皇
そして炊屋姫と共に今の大和の
また稚沙はそのとても無邪気で素直な性格のためか、厩戸皇子からはわりと気に入られていた。
「やぁ、稚沙。君も相変わらず元気そうだ」
厩戸皇子はそんな稚沙を見て、少し微笑んで彼女にそう答える。
「本当元気なのは良いのだけれど、もう少し落ち着きがあれば……」
炊屋姫は少し肩を落として、厩戸皇子にそう呟く。
「叔母上、この元気さが彼女の良い所なのです。私は稚沙のような娘は好きですよ」
厩戸皇子は少し愉快そうにしながらそう話して、稚沙にちらっと目で合図を送る。
稚沙は厩戸皇子に見つめられて、思わず頬を赤くした。
彼はいつもこんな感じで、稚沙に優しく接してくれる。
大和の皇子とはいえ、傲慢な部分が一切なく、彼は
(厩戸皇子はこういうことを全く抵抗なくいえる人だわ。だから他の娘達からも好意を持たれやすい……)
「私から見ても稚沙は本当に良い子よ。だからこそ立派な女官になって貰いたいものだわ。
それに私は彼女の一族に色々と世話にもなってきているから」
炊屋姫はそんな稚沙を見ながらそう話す。
「確か稚沙は
厩戸皇子も炊屋姫に同調して答えた。
稚沙は他の豪族の娘とは少し状況が異なる。
炊屋姫の幼少期、稚沙の一族が彼女の養育に携わっていた。
その縁があった関係で、彼女は炊屋姫の元に女官として仕えることになったのだ。
ただ彼女の場合、元々炊屋姫に対しとても憧れを抱いていた。そこで
だからこそ、彼女は誰よりも熱心に日々の務めに励んでいたのだ。
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