第2話 スイーツオフ会

 スイーツ情報を発信しているブロガーたちが集まるオフ会に初めて参加したのは、今から一年前のことだった。


 ぜんぶで十五名の参加者のうち、大半を占めていたのはキラキラとした空気を貼り付けた二十代から三十代前半の女性で、四十代は私ひとりだった。

 居心地の悪さを感じてなんとなく参加者の顔を見渡すと、ひとり、五十代半ばの男性がいたことにホッとした。


 会場となったカフェでは看板メニューであるモンブランが主催者によって人数分予約されており、テーブルにサーブされるやいなや若い人々はすぐに撮影に夢中になった。

 

 絹のように滑らかなクリームや、大胆にフォークを入れると現れる繊細な断面を見ては様々な言葉で褒めそやし、口に運んではそのこっくりとした甘さを噛み締めるブロガーたち。

 が、次の瞬間には同じ口で「モンブランといえば、この間雑誌に載ってた今人気のやつ、見た目はいいけど味は全然ダメ」「この間あそこのデパ地下に入った有名なあの店のシュークリーム、味は悪くないけど店員の愛想が悪い」など、ブログにはとても書けないようなことを笑いながら言い合っている。

 

 褒め言葉のレパートリーを駆使してブログをしたためているブロガーたちだけに責める言葉の手数てかずも豊富で、そんな彼らのこきおろしを聞いているだけで既に私はお腹がいっぱいになっていた。

 

 ある程度落ち着いたところで、主催者がそれぞれ好きなスイーツを発表していこうと提案した。自身のこだわりをひけらかすように、彼らは必ず『どこそこの店』の『スペシャルなんとか』など店名と商品名を挙げ、何がどう素晴らしいのかを独自の言葉遣いで述べた。


「では次、ポージィさん」

「はい」


 ブロガーとしての名前を呼ばれ、立ち上がる。正直どこの店のものも飛びぬけて美味しいと感じたことのない私は「どこの、というこだわりはあまりないのですが、丁寧に作られたプリンが好きです」と言った。

 案の定、ブロガーたちの反応は薄く、「やっぱり普通の主婦がこういうところに来るのは場違いなんだ」と後悔した。三分の一ほど食べ残したモンブランを眺めながら今すぐ帰りたい気持ちをこらえていると、少し低めの穏やかな声が耳に入った。あの男性だった。


「僕も、プリンが一番好きです」


 いい年をした男性の可愛らしい答えに場は一瞬沸いたが、その後に続いた言葉に全員が白けた表情を浮かべた。


「入院中の妻が、プリンを作るのが凄く上手かったんです。今でもその味を超えるプリンには出会えなくて」


 誰かのために愛情を注いで作られたモノの味に優るものなど存在しないと言われたようで、ブロガーたちは素のテンションに引き戻されていた。主催者は「そうですね、手作りの味が一番ですよね」と当たり障りのないことを言い、潮が引いた後の砂浜のような空気を取り繕おうと「続いての方…」と話を進めた。

 

 

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