第四章

第38話 贄産みの一族

 数日後、椎塚実美の葬儀は椎塚の本家にて執り行われた。


 喪主は千生実ではなく、椎塚家の分家の者が務め、千生実は蒼ざめた顔で一度だけ結人と葉桜丸に挨拶をしに来ただけで、葬儀中もずっと部屋に引きこもっているようだった。


 葬儀が終わってしばらく。今日はいつもと違って、結人を気にしている暇もないように、他家の逢魔師たちは口々に亡くなった実美について喋っていた。


「結人」


 隣に座っていた葉桜丸がおもむろに立ち上がって、結人を見下ろしてくる。


「些か、人混みに酔った。私は外に出て一息ついてくるが、よいか?」

「うん、だいじょうぶ。疲れたでしょうから、ゆっくりしてきてください。そして、後で一緒に千生実のお見舞いに行きましょうか」

「あいわかった。では、行ってくる」


 そうして結人は、喪服姿の人間に化けて髪を緩く結った葉桜丸の背中を見送る。


 一人になった結人は、亡くなった実美について何かしら情報が得られないかと、あちこちから次々に流れてくる逢魔師たちの実美の噂話へ、密かに聞き耳を立てた。


「椎塚の当主は代々、不吉な死を遂げおるよなあ」

「ああ。やはり、〝贄産みの一族〟でもあるからだろ。鎮魂の儀の贄として、数え切れんほどの子どもを捧げていたらしいぞ。その子どもらの祟りだろうな」


 結人は「贄産みの一族」という言葉に、眉をひそめる。


「何でも、実美殿は……一人息子に女をあてがわせて、何人も霊力の高い子どもを産ませていたらしくてな。その子どもを全て、贄として鎮魂の儀に使ったのだろうよ」


 咄嗟に、声を上げそうになったのを結人は片手で口を押さえることで耐えた。


 実美の一人息子とは——千生実のことだ。実美は千生実に子どもを作らせて、その子どもたちを鎮魂に贄に使っていた。だからこその「贄産みの一族」という蔑称。


(まさか、そんなこと……!)


 千生実はずいぶんと、父親である実美と確執があるようだった。椎塚家を勘当されたようなものだとも語っていた。それらの理由が全て、「贄産みの一族」と噂されるおぞましい慣習が由来なのであったとしたら——そこまで考えていた結人の肩が、不意に小さく叩かれる。


 結人が我に返って振り返ると、そこには険しい表情をした珠鶴たまづるの姿があった。


「結人さん。少し、お話できませんか?」


 珠鶴の様子がいつもと違うことに一目で気が付いた結人は、すぐに頷いて立ち上がる。


「珠鶴……うん、いいですよ」

「ありがとうございます。では少し、場所を変えましょう」


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