第36話 花咲か鬼の真
葉桜丸は倒れた
「……葉桜丸」
終始、葉桜丸と蟒蛇を見守っていた結人が、ぽつりと葉桜丸を呼ぶ。
葉桜丸が結人を振り返って、いつもと変わらない様子でその声に応えた。
「なんぞ」
「今のが……
「左様だ」
結人は、血の色をした瞳が零れんばかりに目を見開く。
まさか、あの葉桜丸が——結人も含む、人間を憎んでいるはずの葉桜丸が、己の生命と魂を差し出すような真似を。「真名」を結人に教えるという、あまりにも衝撃的な行動をとるなどと、結人は心から思ってもみなかったのだ。
ひどく驚愕する結人にも構わず、葉桜丸は淡々と語り始めた。
「先日、実美が語った〝鬼の大将〟とは……今より八百年前。人間たちに
「!」
結人ははっと息を呑む。そういえば先日会った椎塚家の当主、実美は葉桜丸をみて「鬼の大将」と確かに呼びかけていた。
「そして、八百年前。表の世界で
葉桜丸の語る鬼の歴史に、結人は大きく目を瞠る。その歴史はまるで、先日実美や千生実が語った「九魔の落人伝説」と同じだったからだ。
「私は姉に救われ、何とか鬼の国へと逃げ延びた。戦が終わってしばらく。私は姉といった〝家族〟という者たちと過ごしてみたが……永く人質として、醜い怪物として生き、人間への憎しみしか知らぬ私に、家族というものは、解らなかった。ゆえに同族どころか家族とすら共に上手く生きることが出来なかった私は、心を失くした〝夜叉〟と呼ばれた」
結人はそこでようやく、葉桜丸が何故自分自身を「醜い怪物」などと称するのか、その理由を悟った。
人質として、囚われている中。人間たちに魂の奥底にまで刷り込まれるように、そう呼ばれ続けていたのだ——「お前は醜い怪物なのだ」と。
そして、そんな過酷な環境で幼い日々を過ごしたゆえに、家族の愛を知らない。
心も身体もぼろぼろになった葉桜丸では愛を、受け止めきれなかったのだ。
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