第24話 穢れの一族
千生実は息を切らして、結人と葉桜丸のもとまで来ると、どこか安心した様子で二人を見比べた。
「やっと見つけた……! 本部の前の庭園から二人揃っていなくなってたんで、ずいぶんと捜したよ。あとちょっと、心配した。先輩、また輩みたいな連中に絡まれたんじゃないかって……」
「……こちらはだいじょうぶです。心配をかけてすみません、千生実」
千生実の心配に、結人は至って平静を装って首を横に振る。葉桜丸は結人を目を細めて見つめていたが、結局何も口出ししてくることはなかった。
「それで、千生実。本部内の様子はどうでしたか?」
「ああ。本部の方も思った通り、怨霊跋扈の件で想像以上にごたついていたよ。御館様も直々に外へ出て、怨霊の鎮魂の儀を執り行ってる。しかも、これは噂なんだが……怨霊の瘴気に中てられて、山神までも荒ぶりそうな兆候が出ているらしい。一柱の山神だけじゃない、複数の神が同時に、だ」
「!」
結人は千生実の言葉に、眉根を寄せて息を呑んだ。
無数の怨霊の出現だけでなく、複数の山神が荒ぶる事態——それは、近頃の怨霊跋扈の件において、多くの山々で瘴気祓いをしてきた結人が密かに想定していた、最悪の事態であったからだ。
千生実は歯を食いしばって、俯きがちになると、ぼそりと小さく零す。
「怨霊に加えて、荒ぶる山神が複数で現れれば……きっと、この九魔の地はたくさんの災厄に見舞われる。数え切れないほどの人間が死ぬ。そうなる前に……俺たちはもう、この〝呪われし大地〟を捨てるべきなのかもしれない」
「……」
互いに黙り込んでしまった結人と千生実。そんな二人の暗い表情を、微塵も気にした風もなく、葉桜丸が割り込んできた。
「結局、新たに知り得た情報は大してないな」
「……そうですね。また、どこか別の所を当たりますか……といっても、その候補が全く思いつかないのですが」
結人はうーんと悩ましく唸り、懐手をして衿元から片手を出し顎を撫でる葉桜丸。そこに新たに、花畑の花を抱えた珠鶴が間に入って来た。
「怨霊跋扈の件でありましたら、わたし。一つ心当たりがあります」
結人たちは互いに顔を見合わせると、珠鶴に視線を合わせるために三人揃って身を屈めた。
「心当たり、というと何でしょうか。珠鶴」
結人の問いに、珠鶴は結人たちに視線を巡らせながら、力強く頷く。
「
珠鶴が、ちらりと千生実へと視線を向ける。結人は思ってもみなかった名前が出てきたことに驚きながらも、珠鶴と同じく千生実に目を向けた。
千生実は苦笑して、片手で後頭部を掻くと、小さく息を吐く。
「そうきたか……そうだな。俺は椎塚家を勘当されたようなもんだけど……先輩が望むなら。俺から椎塚家の当主に口利きしてみるよ」
千生実が真剣な顔をして、結人を見据えてくる。
「珠鶴お嬢の言う通り、椎塚家は逢魔師の中でも最も死という存在に近しい、〝穢れの一族〟だ。そんな一族、本当は先輩に関わって欲しくはないが……どうする、先輩」
「勿論、行きます」
千生実の重々しい問いに、結人は脊髄反射の勢いで答えていた。
「死が穢れだなんて、僕は微塵も思いません。そのうえ、この九魔の地を守る光明を少しでも見いだせるのであれば。僕は是非、椎塚家のご当主にお会いしてみたい——お願いできますか? 千生実」
結人の真っ直ぐな視線を、どこか眩しそうに目を細めて見返した千生実は、快く頷いて見せた。
「先輩のお望みとあらば。喜んで」
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