第84話 白露忍軍の新人忍者たち
※忍軍補足
〇夜香忍軍=山吹忍軍+桔梗忍軍 かつては脇坂家が治める龍田藩の忍軍2つが襲撃に遭い壊滅。その後ローシェに生き残りの忍者や、新たなフリーの忍者などを雇い入れて再編し、ローシェ情報部所属の忍軍となった。
〇白露忍軍:桧垣藩に所属する200名を超える大所帯の忍軍。上忍はサヤ、カイ、タキの3人しかおらず下忍たちの訓練が行き届いていない。
秋津で紫藤派に属しており、光川派に肩入れしている夜香忍軍とは敵対関係のはずだったが……
――夜香忍軍詰め所――
「なんでしれっと白露忍軍のものが5人も訓練に参加してるんだ?」
サカキはあきれ顔だ。
若い5人はにこやかに「ちわーっす」「お世話になりまーす」とサカキに軽い挨拶をする。
彼らの忍着は濃い茶色をしているので下忍クラスだ。
「ちゃんと料金払ってくれるてから……」
先日から引き続き夜香忍軍一番隊副隊長サギリが受付をやっている。この訓練所は軍関係の者なら無料だが、一般市民や外部組織の者からは料金を取っている。
「ここの訓練はどこの里でもやってることだから内容的にはかまわないが、一応白露は
「まあ、いいじゃない」
と、茶をサカキに運んで来たのはサヤである。白露忍軍の上忍のくノ一であるが、サギリが受付にいるときはしょっちゅうやってくる上に、とうとう詰所の受付のお茶係までやりだしたという。
今日は黒の忍者着に白いフリルのついたエプロンをつけている。
「よくない。どうせお前たちのところは上忍が少なくて下・中忍の訓練が行き届かないからとかそのへんだろう?」
「ぎくっ」
図星だったらしい。
「それで、ヒカゲは?」
「今、苦無の手合わせの指導やってる。なんか、最近すごい勢いでいろいろと指導してくれるようになって助かってるよ」
サギリはうれしそうだ。
(こいつとなるべく離れていたいんだな)
サギリの護衛のために付くように言ったんだが……まあ、この場所ならなにかあればすぐ来れるしいいか。
「いやーヒカゲパイセン、ぱねえっす!」
「先日は俺ら、あっという間にたおされましたもん」
「いつ攻撃されたかぜんぜんわかんなかったっす」
「もっとご指導たまわりたいっす」
と白露の若者5人が口々にヒカゲを賞賛する。全員10台後半、といったところか。
ヒカゲも同じ年代で17歳……だが、あまりの実力の差に愕然とする。
先日、上忍の強さとか順列がどうのこうという話題があったが、もしも『殺してもいい』という条件付きならヒカゲが最強だろう。
自分もヒカゲも忍務で殺しの対象であれば迷わず殺せるが、仲間相手であれば……迷うところだ。
サカキはきっとヒカゲは殺せない。ヒカゲはどうだろう。こればかりはやってみないと予想がつかなかった。
「ヒカゲ先生の苦無指南、お待ちの5名様、どうぞー」
サギリが声をかける。
「「へーい!」」
と白露5人組はサヤとサカキに一礼し、詰所から訓練所へウキウキと向かった。
『最近の話だけど……』
矢羽音でサヤが話かけてくる。
『桧垣藩(白露忍軍が属している藩)では今、前将軍の死が紫藤氏によるものだ、といううわさが飛び交っているわ。あなた、何かやった?』
『秘密だ』
『……まあいいわ。今はまだうわさに過ぎないけどいずれ本筋が見えてくると思うの。作為的なものを感じるからね。それに、脇坂泰時だけど、調べてみたら彼、般若衆(元侍の傭兵的な集団)を中心に、全国の武士の集団を集めてるわね。戦で行き場を失った侍衆たちが山吹と桔梗の里に合わせて5000の勢力が駐屯してる。例の襲撃はこのためだったんじゃない?』
それはサカキたちの調べでも判明している。白露忍軍の情報網もなかなか確かなものだ。
『そうだな。だから泰時を知る俺らが邪魔だったんだ。中身が入れ替わったと知られたら俺らが敵に回る。そうなる前に先手を打った』
『そういうことか――泰時にはこれからも注意しておくわ。それともうひとつサービスしておくわね。
以前、うちで
『そうだったのか』
サカキは驚いた。上忍が己の異能を他人に教えることはほとんどない。
実際、サカキも触れた人の感情を読めることなど誰にも言っていない。
サヤの異能は「
物を透視するのではなく、視点を自由に変えることで表からは見えないものも見ることができる。
『脇坂泰時の側近の名前が右近次と左近次。うちに来てた翁衆の彼らと同一人物だった』
『それは……ものすごい大サービスだな……』
思いがけず超重要な情報がもたらされてサカキの目が丸くなる。
『泰時は般若衆だけでなく翁衆ともつながりがある……ううん、これは私の勘だけど彼、翁衆の首領でもあるんじゃないかしら。とまあ、今伝えられるのはここまでかな』
『ありがたい。で、見返りに何が欲しい?』
サヤがニヤリと笑う。
『うちの訓練不足の連中を今の子たちとあと10人鍛えてやってほしいんだけど』
『全部で15人か……いいだろう。ただしそれ以上は受けられん』
『わかった』
その時、ふと視線を感じてサカキは振り返った。
だが、そこは壁だ。だれかがいられるような場所ではない。
(なるほど、そういうことか……)
サカキは人間ではない、何者かの存在を確信した。コレがサヤに関する事件の鍵だとしたら――
(やっかいなことになりそうだ)
サカキは眉をひそめ、人ならざる者への対策を考え始めた。
――剣客用コテージ1号棟――
アサギリとヒシマルの定時報告。
サカキとアサギリ、ヒシマルがテーブルについている。そこから離れた場所でアゲハがスツールにちょこん、と座っている。
「白露忍軍・上の壱サヤについてですが、我々も彼女のことは知ってますが、人を斬り刻んで喜ぶような趣味はありません」
と、まずアサギリが報告。
「ですが、実際に2人の犠牲者が出ているのはたしかです。両方ともサヤといい仲だった人物です」
ヒシマルが続けた。
「実際に会って話をしたが俺もそう思う、ということはサヤ以外に犯人がいる」
「でしょうね。おそらくその人物はサヤが気に入った男を狙っている……」
「だから、サギリさんにヒカゲ様を付けたんですね」
「そうだ。それに、これくらいのことはサヤも気が付いているだろうに、何の手も打っていないのが気になってな」
「犯人は身内……なんでしょうね。でも証拠がないから泳がせているのかもしれませんね」
「ああ。尻尾をだすまでは現状のままで行く。
で、次の話だが、アサギリ、ヒシマル。翁衆についてはどれくらい知ってる?」
「……正体不明、全体数も不明の謎な教導集団ですね。必要とされればあちらから出向いてくる、というのもかなり謎です」
「そういう異能を持っているのかもしれないが、わけがわからないな」
「彼らの歴史はかなり古い、と聞いています。80年以上前からその存在が確認されています」
「そんな前から……」
「翁衆に関してはお取り潰しになった立花家が記録に残していたはずです」
「そうだったのか――詳しいな?」
「現当主の光川慶忠様の父君がその時のことを記した書状を持っておられました」
「……ここに立花たちを呼んで来ていいか?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アサギリは思案した。ここで立花源一郎春城に顔を知られる、ということは自分たちが光川の諜(多重スパイ)であることも知られることになるはずだ。立花はいずれ光川家の主城・伊津河城へ行くはず。本来ならば主君に伺いを立てなければならないところだが――
「……いいでしょう。これは私の独断ですが、主には事後報告することにします。一応我らの顔は頭巾で隠させてください」
サカキはうなずいた。
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