第83話 反省会と言う名の打ち上げ
※登場人物補足
〇アカネ(茜)19歳 髪:黒 瞳:茶色 元山吹の里のくノ一だったが忍者の才能がゼロで追い出され、現在はローシェ王女付きメイド
〇マソホ(真朱)17歳 黒髪黒瞳 格闘が得意 元気で女皇と気が合う ボクっ娘
〇ヒカゲ(日陰)17歳 髪:赤味を帯びたくせっ毛 瞳:単純な茶色 山吹の里の中忍2位→夜香忍軍五番隊隊長 手練れに見えないが上忍でもトップクラスの戦闘能力を持つ。元暗部(暗殺専門部署) 人間嫌いで性格も暗く普通の会話が困難 だいたいヒムロにくっついているので最近はマシになってきた
〇サギリ(狭霧)26歳 髪:金色に近い茶色 瞳:薄茶の瞳 幸薄そう、と言われる悲し気な顔つき いろいろと不運な目に遭っているが本人は飄々としている
(重要な役目があるのに途中まで筆者が登場させるのを忘れていた、さらには登場人物紹介7にタイトルに名前が入っているのに紹介文を忘れていたという不運の極み)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あー終わったーーみんな、ご苦労様でした!」
女皇が伸びをしながら言うと。
「「おつかれさまでした」」
と薪能メンバーが声を合わせる。
3人の賓客が帰り、残ったものたちはそのまま舞台の上に敷物を敷いて食事をとることにした。
食事はコテージ管理棟から幕の内弁当を注文した。
ユーグは感極まって「途中から涙でなにも見えなくなった」と後悔していた。
ヴァレリー公爵は薪能を大層気に入り、ぜひうちのサロンでも!と激推しして、何かと忙しいユーグといっしょに肩を並べて帰った。
サロンで絶対やらされるだろうな、と忍者たちは予想した。
ちなみに、ヴァレリー公爵は呼んでいないのに来た。予想はしていたので、貴賓席は余分に作っていたが。
サカキは、どこから情報を得ているのか調べないとだが、最近はそういう方面に権力を使って来るので、別の意味で油断ができないな、と思った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パチパチとかがり火が燃え、その炎がゆらめく影のせいで少々不気味な顔になったロルドが全員に問う。
粉屋のおやじが粉屋のおやじの幽霊のようになった。
「さて、3人の中で危険なことを言ってた人がいましたが、それがだれかわかりますか?」
口元はニタア……と笑っているように見える。
「ええ?みんないい人そうでしたよ」
アカネが弁当をモグモグしながら言った。
「「「ムーンダムド」」」
他の者たちの答えは全員一致。
「はい、アカネちゃん以外正解。アカネちゃんは人が良すぎますね」
ロルドは苦笑している。
やはり彼女は忍者に向いていない。
「ムーンさんは衣を身分、と捉えました。あれはちょっとした心理テストだったんですがね。
常日頃から自分が重きに置いているものに例えやすいんです。
それに、彼は『国を挙げて歓迎します』と言いました。まるで自分が皇帝であるかのように」
「あれ?そういえばそうだわ」
アカネが首を傾げた。
「第2皇子であるにもかかわらず、ですね。
彼の中ではすでに帝国を裏から掌握しつつあるのでしょう。それを考えるとダールアルパが権謀術数に秀でている、という説が揺らぐ」
「最初から第2皇子の手の平の上で踊らされていた?」
ケサギが渋い顔だ。弁当に苦手なしいたけの煮物が入っていた。
「そうかもしれませんね……いや、そうだと思います。あの言い方ではこちらにそれが知られてもかまわない、ともとれます。もしそうなら彼は……ダールアルパよりもよほど強敵になります。黒魔法対策はこのまま最重要項目として心に置いておいてください」
ロルドの言葉に忍者たちが神妙な顔でうなづく。
「逆に、意外と友好的だったのがギルバットですな」
ヒムロも胡坐をかき、弁当を食べつつ意見を述べた。
弁当の中身は卵焼き、サーモンの塩焼き、野菜の煮物、俵型にむすんだおにぎり。コテージ職員の秋津食の腕が上がっている。そろそろ梅干しも登場するかもしれない。
「彼は、詳しく調べましたらアラストル帝国立大学を3番で卒業したほどの才人でした。主席と次席は皇族が取ることに決まっているので実質主席ですな。猪突猛進の暴君のように演じているのは本当のようです」
と、スパンダウが秋津の弁当文化に感動しながら述べた。
「彼の感想はおもしろかったね。姫君の心情を第一に考えたし。悪い人ではないとおもいまふ……もぐもぐ」
素の姫が箸を上手に使いながら卵焼きを堪能している。
「もー、姫ったら!しゃべるときにはお口に物を入れてはいけない、って言ったでしょ」
ロルドが母親のように注意する。
「彼らと比較して、カイル・コンラード公はまだまだ力不足感があるな」
ちゃんと飲み込んでから述べるのはサカキである。
「あれは演技ではなく素のようです。結婚の申し込みを父親に頼まれてする、というのもちょっと……。
まあ、コンラード家にはヴァレリー家と同等に扱う、と伝えておきます。当面はそれでよいでしょう」
「彼は、衣を命、と考えた。結末もロマンチックな感じだったな」
「夢見がちなタイプのようですな。うーん、これでは父親がまだまだ裏から手を出してきそう。やや注意人物、ということにしておきましょう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それにしても、忍者さんたちはみなああいう楽器や舞や舞台づくりまでよく知ってましたね」
ロルドが感心している。
「忍務では旅の芸人一座に潜り込むことがよくあるんですよ」
アゲハが、弁当が残り僅かになってしまったことに悲しみながら言った。
「忍者としてはポピュラーな潜伏先です。なので日頃から芸事は訓練していました」
煮物の味付けに感動しながらムクロが答える。ケサギのしいたけは彼がもらった。
「今回、ヒムロ君に相談してよかった。3人のややこしい申し込みに対してはこれでほどよいところに収まりました」
「そろそろ催し物をやろうかと考えていましたのでね、いいタイミングでした」
ヒムロは弁当をゆっくり味わっている。
「薪能、すごく楽しかった!またやりたいなあ」
姫がおにぎりをホフホフとほおばりながら、チラリとロルドを見る。
一同は姫がすっかり元気を取り戻していることにほっとした。
マソホも姫の隣で「ねー!」と首を傾けて同意する。
姫も首を傾け「ねー!」と答えた。すっかり仲良しである。
姫が16でマソホが17と年が近く性格も似ているところがあって気が合うようだ。
「そうですね、忍者の皆さんがよければ次は一般公開でやってみますか?」
とロルド。
「いいですね、夜間の活動に慣れるのも訓練の内、と思えば。夜の警備網も強化したいところですし」
そう答えるケサギは今回はムクロといっしょに笛方だったが、楽しかったらしく顔が明るい。
「では、この舞台は分解して詰所の倉庫に保管しておきます。幕も、次はちゃんと紋を染め抜いたものを使いたい。陣幕に仕立てておけば戦にも使えますしね」
舞台や幕、秋津風のかがり火はヒムロと4番隊の忍者たちが建設騎士団たちと合同で突貫的に作ったものだった。4番隊は手先が器用だったり大工の心得があるものが集まっている。
「そういえばこの数日、ヒカゲ君はヒムロ君にくっついてないね?」
スパンダウが問うと。
「ヒカゲは今、サギリに付かせています。ちょっと気になることがあるので」
サカキは最後に残った卵焼きを見つめながら言った。深刻な顔だ。
「ああ、例のくノ一さんでしたか。報告は聞いています。やっかいなことになりそうだったら教えてくださいね」
「はい」
「ヒカゲが困ってたぞ。サギリがやたらと話しかけてくるらしいから」
ヒムロが苦笑している。ヒカゲは会話が不得意であまり人としゃべりたがらない。
「あとでサギリに言っておく……」
サカキは予想していた通りのことでため息をついた。
弁当を完食してしまったため息のほうが大きかったが。
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