第78話 女子会と覗き犯

※これまでの簡単なあらすじ

 アラストル帝国から亡命して来た黒魔導士キーリカとパシュテは条件次第で国家機密である第一階梯の魔法を撃てることがわかり、安全面の観点からサカキたちのいる剣客用コテージの4号棟に住むことになった。

 

――剣客用コテージ4号棟――


「「うわあ、かわいい!」」

 キーリカとパシュテは2人声を揃えて喜んだ。

 彼女たちが住むコテージの中は、淡い桃色のカーテンに、色とりどりの布で花や果物を描いたキルトのベッドカバー、濃い茶色のソファにはヒツジのモコモコとしたぬいぐるみが飾られ、花瓶に生けられた花が華やかさを添えている。

 テーブルの上には果物とお菓子が山盛りになっていた。


「でしょう?」

 とヒスイが満足げな笑顔で答える。

「私たちみんなで飾りつけがんばりました」

 アゲハも、アカネもルゥもうれしそうである。


「早速お茶を淹れますね、ここの2階に私も住みますので。

 生活のお手伝いは私が担当します。なんでもおっしゃってくださいね」

 ヒスイがメイド服でテキパキと動く。

「「わーいありがとうございます!」」


 そこへ、管理棟からルミルがやってくる。

「姉さまたち、お久しぶりです。お元気そうでよかった」

「「ルミルー!」」

 キーリカとパシュテがルミルの手を握って再開を喜んだ。

「あなたも元気そう……以前より顔付きが明るくなってる」

 キーリカが目ざとくルミルの変化を感じ取った。


「わかりますか?今はここの管理棟で職員のお仕事をお手伝いさせてもらいながら白魔導士の勉強もしていて、毎日がとっても楽しいんです」

 ルミルが照れながら言った。


「よかったねえ、ほんとによかった……」

 ルミルの行く先を案じていたパシュテも涙ぐみながら彼の変化を喜んだ。

 自分たちのせいで、危険な目に遭っていたらどうしよう、と心配していたのだ。

(ルミルは宦官見習いで、男と話ができないキーリカたちに付いて来る形で亡命した)


「他のコテージには上忍の方々がおられますし、管理棟には高位の白魔導士もたくさん詰めています。

 周りは森ですし、静かで、住むにはとても安全で快適なところですよ。ご要望があればすぐに応えますので遠慮なくおっしゃってください」

 ルゥが、自分の胸をぽん、と叩く。


「「ありがとうございます!」」

「というわけで!」

 アカネが右手を上げて宣言する。


「キーリカちゃん、パシュテちゃんを歓迎する女子会やりまあす!!」

「「女子会イエーーーイ!」」

「あっ、僕はこれで失礼しますね」

 とルミルは小さく手を振ってささっと仕事に戻って行った。かしこい子である。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


『しれっとルゥ(男の娘)も参加してるな』

 4号棟隣の1号棟住まいのサカキは彼女たちの声がしっかり聞こえていた。

 サカキは気になって外に出て、女子会の様子が見える木陰に行くと先客がいた。

 ケサギとムクロである。


『あんたたちものぞき見か』

 声を潜めながらサカキが苦笑する。

『当然だ』

『何かあったら大変だからね』

 ともっともなことをいうが、顔はうらやましそうだ。

 本当は自分たちも参加したいのだろうが、女子会に男は近づいてはいけない、という常識は一応持っているので結果、ここにいる。

 忍者はのぞき見は仕事の一部であると思っているため、罪悪感はない。


 そこへ。

「サカキ様、こちらでしたか、ケサギ様とムクロ様もご一緒で」

 アサギリとヒシマルが秋津から戻って来ていた。

「おお」

「やあ」

「久々だな。そちらはもういいのか?」

「はい。長い間の不在、すみませんでした。おかげで主(光川慶忠)は半身を起こせるまで回復いたしました。

 新しい白魔法の障壁も設置していただけることになりローシェの方々には感謝しかありません。本当にありがとうございます」

 2人が深々と頭を下げる。


「こちらにも利があることだからな、気にするな」

「そちらでも襲撃があったそうで、ご無事でなによりです」

 アサギリもヒシマルも目の下に隈ができている。かなり憔悴していたが回復に向かってはいるようだ。


「ああ、なんとかな。では現状を詳しく報告してくれ」

「はい」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 木陰で報告を始めたサカキたちに、ヒスイは気が付いて笑みが浮かんだ。

(うちの上司たちったらあんなところで……)


 女子会が心配なのと、女の子たちがワイワイ騒いでいる様子を見たいのだろう、と看破した。

 この緩いところが山吹の忍者たちの利点でもあり、ある意味忍者としては欠点でもある。


 しかし、ヒスイは彼らの緩さが気に入っていた。

 きつく張り詰めた神経は、余裕がない分、いざというときは案外脆い。


 一番恐ろしいのは緩い、と敵に思わせた瞬間、爆発的な速度で間合いに入ってくるやり方だ。

 元山吹の上忍たちは攻撃態勢に入る、という動作を相手に感じさせない。

 気が付けば対戦相手は床に倒れていて天井を見上げている。

 今こうやって雑談に興じて見えているときも周囲の空気の変化を絶え間なく見張ってくれているだろう。


「ええー、サカキ様の髪って、朝起きた時はあちこち跳ねてるの?」

 ルゥがびっくりしている。

「そうなんです。でも、手櫛ですーっと梳くと、とたんにサラサラでまっすぐな髪に戻るんです。すごい不思議!!」

「「なんてうらやましい……」」

 女の子たちの今の話題はサカキの黒髪だった。

 ヒスイも、あとで手入れのコツがあれば聞いてみようと思う19歳であった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


――オマケ・数日後――

「サカキ様ー、髪の手入れのコツってあります?」

「ん?そうだな――洗った後はなるべく早く地肌まできっちり乾かすこと。風遁を使うといいぞ」

「そうだったんですね!私、火遁使ってました……」

「火遁は早く乾くがやり方によっては髪が痛む。風遁が一番だ」

「目からウロコですわ!!」


と言うやり取りがありましたとさ。

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