第79話 対黒魔導士戦闘訓練打ち合わせ
※注:キーリカとパシュテの言葉が時々カタカナになるのは、公用語を使っている部分だからです。普段はアラストル語をしゃべっています。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
キーリカとパシュテが剣客用コテージに住み始めてから三日後。
城内第5訓練場では、サカキ、ケサギ、ムクロ、スパンダウ、ゾル、ダン、キーリカとパシュテが本格的な訓練前の打ち合わせをしていた。
上忍3人は戦忍用ロングコート着用だ。
「えっ、雷魔法って追尾性能あるの?」
ムクロとケサギが二人そろって驚いている。
キーリカがテキパキと答える。
「はい。第3階梯以上の雷魔法に限られますが、こう……魔力の糸を対象に結ぶのです。一度結んだら、あとはどんなに早く動いても魔法は当たります」
「うわー、だからか。ワタシの動きを読んでたわけじゃなくて、追尾されてたのか。当たるわけだ……」(9年前雷撃を受け背中に火傷を負った)
「それ、炎とか風の魔法でもできる?」
「いいえ、魔力の糸と同時に仕えるのは……雷魔法だけです……」
「別の魔法を合わせる時に相性があるみたいです。風と火の魔法は組み合わせて、主に軍隊の前進を阻む目的で使うことが多いです」
「魔力の糸……か。そういう使い道があったとは」
ゾルが頭に人差し指を当てている。考えるときのクセだ。
「白魔導士さんにも同じような魔法があるのですか?」
パシュテが聞く。
「あります。ルゥが一番上手いかな。魔力の糸は本人にも、本人の魔力で作ったものにも両方有効で、ルゥなら糸の長さは最大で5ハロン(km)はいけます。ただ、黒魔法のように糸が付いた人間に攻撃、とかはできません。居場所がわかるだけですね」
ゾルが答える。
キーリカがうなずく。
「黒魔法の場合、相手が瞬間移動しても糸は切れませんし、雷魔法は発動が早くて射程距離もかなりあるので、対象に当てる目的でよく使います」
「ですね、私たちも訓練では逃げるうさぎや鹿で雷魔法を練習しました」
パシュテもコクコクとうなずいた。
「ほほー、狩りに使えるなら便利だね」
「いえ……当たったら黒焦げになっちゃうので狩りになりません……」
「ワタシ……よく生きてたなあ……」
ムクロが額に手をあてて首を振った。
「それを訓練にするというと……威力は落とせないですよ?無理じゃないですか?」
パシュテが心配そうに言う。
「だいじょうぶ!この新型戦忍コートとブーツは電流を地面に逃がす構造になっています。一応人形を使ったテストは済んでますが生身ではまだ……」
「「……」」
3人の上忍の表情が消える。
「僕が防御魔法を生身にかけますから!だいじょうぶ、たぶん……」
とゾルが勢いよく言い、語尾のほうは消え入りそうに言った。
「じゃあオレとムクロは前に真剣テストやったから、次はサカキな!」
「え」
「サカキさん、おねがいします」
「立花呼んでいい?」
「だめです。今日は立花さんたち剣術指南やってますからね。今度こそよろしくおねがいしますよ?」
ゾルが厳しい声だ。
「そもそも立花さんじゃサカキ様のコートは着れません!体格が違いすぎます!」
ダンも追撃する。
「まあ、観念してください、サカキくん」
自分は安全圏なスパンダウが笑っている。
サカキは肩を落とした。
「……わかりました」
(雷、苦手なんだがな……)
ダンが重ね重ね注意する。
「いいですか?魔法を受けるときはかならず両足を地面に付けておいてください。片手と片足でもかまいません。それならダメージはゼロにはるはずです。両手と片足とか3か所地面に付けるのはダメです。一番危険なのはジャンプ中です。耐雷構造になっている、とはいえそのときに直撃すれば気を失うくらいの衝撃があるはず」
「わかった」
「では、まず普通に立ってて受けてみてください。キーリカさんパシュテさんよろしくおねがいします」
「ハイ。でもだいじょうぶですか?チョト不安……」
「だいじょうぶだいじょうぶ。私を信じて!」
ダンがウインクする。まつ毛が長くバサバサしていて目力がすごい。
「俺の忍者刀、大切にしてくれ……」
サカキはこの世の終わりのようなことを言い出した。だが顔は苦笑している。
「案ずるな」
「家宝にいたす」
とケサギとムクロもおどけた調子で返した。
「では、始め!」
キーリカが魔法を唱える。
「雷よ(ライル)……走れ!(オーム)」
ドン!
雷の柱が立った。
キーリカは精神統一の時間もなしで、短い詠唱で瞬時に第3階梯雷魔法:ライルを撃って見せた。
かなりの大きな音と、地面に土煙が上がった。
あっという間だった。雷の柱が一瞬見えただけだ
「だいじょうぶですか?」
ダンが聞く。
「……無事だ……だが音で耳が痛いな」
土ほこりでコートが汚れ、地面から白煙が上がっているが、サカキは無傷だった。
顔の前で交差していた両手をほどき、コートについた土を手で払った。
「「スゴーイ!」」
キーリカとパシュテが拍手をしている。
「よかった、ちゃんと機能してた!さすが私!」
とダンが自画自賛している。
「ただ、こうやってじっとして受けるのは、戦闘時はありえないぞ」
「だねえ。それに、この魔法、かなりの長距離から撃てるんでしょ?ワタシたちなら止まってる、ってことはあまりないから、動きのある訓練しておいたほうがいいよね」
「そうだな。それに魔力の糸を結び付けられた時、違和感を感じた。キーリカ、俺の背中に付けただろう?」
「ハイ、セイカイデス、サカキサマ。よくわかりましたね」
キーリカがびっくりしている。
「忍者ならこの感触、わかるかも?白魔導士の糸も同じかな、ゾル、俺の背中に付けてみてくれるか?」
「了解です」
ゾルが手の平をサカキに向けた。
詠唱はなし。
「どうです?」
「同じだ。黒魔法と同じ違和感だ。下忍はどうかな。1人呼んで試そう、アキミヤ!」
「はい!」
と、繋として気配を消していたアキミヤが出て来る。
「私も試していいか?」
スパンダウが前に進み出た。
人差し指を向けてキーリカが問う。
「いまスパンダウ様に付けました。どこに付いたかわかります?」
「すまん、ぜんぜんわからん」
「ですよねー、普通はわかりません。今足に付けたんですけどね」
スパンダウに魔力はまったくない。これはローシェの武人には多く見られる共通点で、ユーグにもない。
武勇を誇るものほど魔力はないのが常だ。
「アキミヤさんはどうです?」
「左手ですね。ちょっと違和感あります」
「正解!」
「なるほど、忍者にはわかる、というわけか。この雷魔法は、9年前、キーアの丘での局地戦で用いられてな。我が第二騎兵中隊700対アラストル軍500の小規模なぶつかりあいがあって、我が軍から5名の死亡者、20人の重傷者が出た。決着がつく前に雪が降りだして互いの軍が引いたのでそれだけで済んだがね」
スパンダウが両手を組みながら言った。
「ワタシの背の火傷はその時に受けたものだよ。斥候役の傭兵として従軍してたんだけどね、当時はまだ中忍だった。違和感……そのときは興奮状態だったからかな、気が付かなかったのかなあ?」(※山吹の里の税のためにムクロとケサギは外国へよく出稼ぎに行っていた)
ムクロが頭をポリポリと掻いた。
「そうだったのか、軍を率いていたのはユーグではなく別の将軍だったな。ふむ。まあ忍者はいいとして、騎士たちには最新の耐雷構造装備を用意するのがよさそうだ」
「では、実践訓練をしようか。糸がついたから、と突っ立っていては戦えない。動き回って雷を避けられるか検証しよう」
とサカキが言い出した。
「「えっ?」」
やる気になったらとことんやるタイプのサカキである。
「本気ですか?いや、それはありがたいが……」
ダンがうれしい反面心配もありそうだ。
「パシュテ、次は君が試してみてくれないか?最初に糸を付けたら俺は動き回るからそれで魔法を撃ってみてくれ」
「ワカリマシタ。でも避けてくださいね、ケガさせるのはイヤですから……」
パシュテは不安そうだ。
「では……はじめ!」
サカキは糸を確認すると縮地を使ってパシュテから遠ざかる。
「雷よ(ライル)……走れ!(オーム)」
ドン!!
と土煙が上がる。
「あっ!」
と叫んでパシュテが目を見開く。
「当たった?」
「「なんだって?」」
焦げ臭いにおいが当たりにただよってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます