第49話 犠牲者をゼロにするぞ
――宰相執務室・夜――
「姫、それはあまりにも……」
ロルドは困惑していた。
女王モードのイリアティナの申し出は、ロルドが考えていた犠牲を最小に抑えられるが最も危険な作戦とほぼ一致していたのである。
「やるしかあるまい」
錫杖を手に王女は毅然と立っていた。
その瞳は厳しい光を放ち、唇をきゅっと結んでいる。
「失敗すればそれこそ預言の通りになるんですよ」
「百も承知。だが、ロルド、そなたが15年もの間考えに考え抜いた計画があるのだろう?
私はそれに賭ける。私の安全を第一にして犠牲者を多数出すなど私の心が許さぬ」
「貴方様ならそういうと思ってました……」
ロルドは息を長く吐いて脱力する。
「私は最強の
「ええ。おそらく侵入と脱出に関しては失敗する確率は低いかと。しかし――」
「しかし?」
「素の姫にハニートラップができるかどうか、そこが一番の問題点なのですよ。
王女は不敵な笑みを浮かべた。
「まあ、大丈夫だろう」
「いえいえいえ!貴方様やお姫様モードならいざ知らず、あの素の王女ですよ?」
「相手はアラストル皇帝ヨシュアルハン。彼は息子と違って理性と大陸的な常識がある。私の勘ではうまく行く。むしろ、素の私だからこそできる、と断言しよう」
「ええ……すごい不安なんですが」
「それに、預言では私は女王となっている」
「アラストルに捕まって、彼があなたを名目だけ女王と成し、ローシェ王国をわがものにする、という可能性もあります」
「それはあり得ない。皇子は女が国のトップになることをたとえ名目だけであっても許すことはない」
「……王女陛下のおっしゃる通りです」
女王モードでここまで言われたら、ロルドはもはやこれ以上の説得はできない、と判断した。
ロルドは両手を上げる。
「わかりました。サカキとスパンダウ、クラウスを呼んで計画をご説明しましょう」
ロルドの根負けであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ロルドにとって、意外だったのはスパンダウが「いいでしょう、ちょうど我が国に風が吹いて来ましたから」と、作戦に異を唱えることもなく快諾したことだ。
「うちの手の者の新情報です。第一皇子はやはり現皇帝ヨシュアルハンの殺害計画を進めていました。そして、ヨシュアルハンもそれを知っていました」
スパンダウが淡々と説明する。
「知っていた?それなのに皇子を捕らえないのか?」
サカキが問う。
「ええ。もうヨシュアルハンの周りはほぼすべて皇子の手の者にとって代わられていますから、捕らえようとしたところで無駄です。
それに、ローシェ王国に軍隊を送るにはまだ皇帝には生きててもらわねばなりませんからね、ローシェの喪が明けるまでは彼の身は安全です」
ロルドも説明に加わる。
「そう、ローシェの喪が明け、アラストル軍が攻め込んでローシェを滅ぼすまではね。むしろ、それまでは生きていてもらわなければなりません」
クラウスもうなずく。
「先日ご説明しましたが白の女神と同様、アラストルも黒の男神との誓約により、喪中に他国に攻めることはできません。また、喪が明けても喪中の国に攻め入ることもできません。ローシェの喪が12月16日午後0時、つまり3日後ですが、それが明けた時、確実にアラストル帝国の軍隊と黒魔導士部隊が攻めて来ます」
「そこの抑えの要が我ら夜香忍軍ですね」
サカキが両腕を組んで言った。
「そうです。軍隊は国境に配置され、先に黒魔導士部隊の非常に強力な黒魔法・恐らく炎や雷撃系の魔法で我が軍と国内の施設に大ダメージを与え、それから軍隊が流れ込んできます。ロルド様の試算によれば被害は1万人規模だとか」
と、スパンダウ。
「ええ。夜香忍軍のおかげでそれだけの被害に抑えられるだろうと予測します。
ただ、それもできれば避けたい。ローシェが弱れば周辺の国が牙を剥く。
そこで、王女陛下とサカキ殿に特別潜入任務です。成功すれば被害はほぼゼロです」
ロルドは神妙な顔つきでサカキに言った。
サカキが不敵に笑う。
「承知した」
ロルドとスパンダウ、クラウスが驚く。
「えっ、すごく危険だし、てっきり『姫に危険なことはさせられない』とか言うと思ったのに!」
「姫に覚悟はできている。ならば俺はそのご意思に添うまでだ」
「……大した胆力だ……いや、これはまいったな」
スパンダウが苦笑している。
「姫から計画をすでに聞いてたのですね」
クラウスも微笑んでいる。
サカキがうなずく。
「ここに来る前に。実はかなり焦った。止めようとしたが、姫の意思は強固だったので諦めた。
で、実行日は戴冠式の前日15日の夜だそうだが、それで一日でローシェに戻って来れるのか?アラストルまで陸路で片道5日以上かかるはずだが」
「アラストルに潜入させているスパンダウの手の者によると、条件が整うのがその日しかないそうで。
時間ならだいじょうぶ。我ら白魔導士の国・ローシェの得意分野:よその国にもこっそり結節点、ですよ」
ロルドが胸を張って言う。
「苦労して開けてるのは我々白魔導士なんですが。一度使うと存在がバレるのですぐに塞がないといけないのが難点でございまして」
とクラウスが突っ込む。
「ごめんごめん、いつも白魔導士様には感謝しております」
ロルドがクラウスを拝んでいる。本当に白魔導士すごいな。
「では、細かいところを説明して行こう」
4人は集まって声をひそひそと長い間話し合っていた。
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