第23話 クラウス先生の白魔法講座 前半

 ――剣客用コテージの管理棟会議室――


「はああああい!みなさーん!こんにちは!クラウス先生の白魔法講座が始まりまあーす!

 司会進行を務める天才美少女白魔導士ルゥでーーす。

 ルゥルゥって呼んでね❤❤」


 とルゥがウインクする。それと同時に桃色や黄色の花びらが舞い、シャラランと軽やかな音が鳴り、くるくるとまわってルゥはポーズを決めた。

 白魔法のひとつ、幻影魔法らしい。

 ルゥは桃色の髪をうさぎの耳のように頭の上2か所で髪をハート形の髪留めで止めていた。その髪はクリンクリンと巻いている。

 薄い水色のドレスだが、スカート丈が膝上でかなり短い。


 忍者たちはポカンとしている。カルチャーショックだ。


 クラウスが手でこめかみを抑えた。

「ルゥさん、普通に助手としてお呼びしたのですが……」


「もちろんですー!クラウス先生のお手伝い、一生懸命やりまあす!」

 とニコニコしている。


「ま、まあ、いいでしょう。では始めます」

 ここは剣客用コテージ管理棟にある中会議室で、2人掛けの机と椅子が横に4つ、縦に3つ並んでいる。


 座っているのはサカキとアゲハ、ヒムロとヒカゲ、それにアサギリとヒシマルも呼び出されていた。

 クラウスの前にはボードがあり、チョークで字を書けるようになっていた。


「まず、白魔法とは何か、それは白の女神・イルミナとの契約により神の力を借り受けて行使するもの、という風に表現するのがわかりやすいと思います。

 こんな感じで、初歩から順に説明していきます。あ、質問は適宜どうぞ」

「「「はーい」」」

 クラウスは続ける。


「ローシェ王国の歴史は、115年前、初代の王と白の女神との邂逅によって始まりました。

 ローシェ城の北側には白の神殿がありまして、その奥に女神像が安置されています。


 女神像は初代の王が滝の中で発見し、そこに神殿を作り、それを守るように城を建てた、と歴史書にあります。その女神像は何も語りませんが、白巫女しろみこ、と呼ばれる少女が女神の声を伝えるのです」


「白巫女か。秋津の国にも白不巫イタコという霊のお告げを伝える者はいるが似たようなものなのかな?」

 ヒムロが問う。


「そちらはたしか死者の言葉を伝える霊能者のことでしたね。それとは異なります。

 白巫女は、初潮前の少女だけがなれるもので、数年務めた後、初潮が来たら次の白巫女が選ばれます」

 サカキにとっては初めて聞くシステムである。


「選ばれる、とは?」

 サカキが問う。


「女神が巫女を選ぶのです。選ばれた少女は『我は白の女神・イルミナである』と本人とは全く違う声でしゃべりはじめます。そうすると家族が城に連絡をし、白の神官たちがお迎えにあがります」


「女神様、って実在してしゃべったりするんですか」

 アゲハがびっくりしている。


「はい、私は何度か白巫女が女神の言葉を伝えるのを聞いたことがあります。

 実在しているからこそ、空間魔法や治癒魔法を皆さんご覧になったと思いますが、契約が成立しているのだと言えます」


 サカキが首をかしげた

「たしか、姫は無神論者、とユーグ殿が言っていたが矛盾していないか?」


「ああ、それは姫のお考えでは、本当の神とは何も語らずなにも起こさず、ただあるのみ、という概念をお持ちだからだと思います。

 人を介して言葉を伝えるのは、神ではなく人間の崇拝する心、信仰する心を得て力を増そうとする大精霊の類である、とおっしゃられておりました。実のところ、私もそのお考えに賛同いたします。とはいえ白の女神を信奉する心は常に持っておりますが」


 なるほど、姫の考えの方がサカキにはまだ納得できた。

 精霊の類が人間に働きかけるというのは忍者が忍術を使える理由のひとつである。

 秋津では自然に存在する火や水、風などの自然現象を起こす不可視の精霊を御霊みたまと称し、忍術を使う時に、火遁なら火の御霊へ祈るのだ。


 クラウスが続ける。

「実際は魔力があれば契約なしでも初歩の精霊魔法は使えます。単純に火を付けたり、少量の水を出したりする魔法を精霊魔法というのですが、それよりも複雑なことができる白魔法は女神と契約を結ばねばなりません。


 空間と空間を結節点で繋ぎ、瞬間的に移動する、人の殺気を察知する防壁を張る、致命傷の人間に生命力を流し込んで死の国を遠ざける、と言った高位の白魔法はかなりの魔力が必要です。それを人間に与える、というのはやはり神、と称してよいほどの強大な魔力を持っている存在と言わざるを得ません」


「すごい力だな……」

 ヒムロがため息をついて言った。


「はい。力が強い魔法だからこそ、厳しい規律があります。

 ロルド様はこれを皆さんに覚えていてほしかったのだと思います。

 サカキ様にはすでにロルド様が説明しておられますが。

 それは、王・女王が崩御したとき、300日間の喪に服す、というのものです」


「白巫女とやらは国の頭が死んだことがわかるんですか?」

 アサギリが問うた。


「わかります。過去の歴史において、喪に服すのを回避するために王の崩御を隠したこともありましたが、崩御と同時に白巫女が宣言しました。隠しても無駄ということです。


 白魔法の国における『喪中』とは、他国に侵略行為を行うべからず。他国から攻撃される前に攻撃するべからず、他国の王や女王を殺すべからず、戴冠するべからず、です。これを破ると、空間・治癒・障壁・真実の紋章・鏡の魔法などすべてが使用不可能になってしまいます。さらに、喪中でない場合でも喪中の国への攻撃も禁じられております」


「騎士団が国境を越えて山吹の里へ進軍したのは本来なら許されないことだったのだな」

 青ざめるサカキにクラウスが微笑む。


「ええ。ですがサカキ様が助けを求め、それに応える形をとっていましたのでギリギリセーフだった、ということを聞いております。

 それに、使用不可は一時的なもので、喪中の期間がすぎ、新王・新女王が戴冠すればまた契約が更新され高位魔法が使えるようになりますのでご安心ください」


(永久に、というわけではなかったか。それに、里人救出の折に俺が姫に助けを求めたときに「よく言った。その言葉が我が騎士団を守るであろう」(※第5話)とはこのことだったんだな)

 サカキはほっとした。

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