第21話 誓いの儀式本番

 ――大広間:数日後――


「王女陛下、お出ましーー!!」

 近衛兵が声高々と告げ、ラッパが鳴らされた。


 城の中でもっとも広く、豪華な大広間である。

 床は総大理石で、赤くて分厚い絨毯が広間の真ん中を通して敷かれている。

 壁には複雑な模様の刺繍のあるタペストリーと騎士の盾がかけられている。

 高い天井からは銀とクリスタル製のシャンデリアがいくつも下さがっていた。


 イリアティナ王女は玉座の前に立ち、その左手には錫杖を持っている。

 この錫杖の先端には人の握りこぶしほどの大きさの輪が付いていて、その輪に5本の同じ大きさの銀の輪が通されている。

 固定されている輪は太陽を、それに嵌められた5本の輪はそれぞれ満月、新月、半月、上弦、下弦の月を表しており、その名を「日月錫杖じつがつしゃくじょう」という。


 それは、初代の王が白の女神から授かった、と言われているもので、代々の王や女王が受け継いできた国宝だった。


 現在、ローシェ王国には200を超える騎士団が存在している。

 その団長たちが全員大広間に集められていた。

 王女はその騎士たちに

「みなのもの、長い間待たせてしまいましたね」

 と声をかけ、静々と階段を降りる。

 今日のドレスはローシェブルーと言われる高貴な青いドレスに金色の縫い取りがふんだんに施されている。


 金色の髪は高く結い上げられ、いくつもの宝石があしらわれた髪飾りティアラをつけていた。

 第2級礼装であり、王女ではこれが最高位の礼装となる。


 背の高い騎士たちの中でもさらに頭一つ抜きんでているユーグ・オスローが歩み出る。

 白銀の典礼鎧に身を包み、腰にはローシェ王国の紋章・立ち上がる金獅子紋の入った儀仗剣を刺している。

 大将軍にふさわしい堂々たる騎士ぶりである。


 王女の前まで進むと、ユーグは片膝をつき王女の美しい顔を見上げた。

「ずっと……この日をお待ちしておりました……!」

「私もです。ユーグ……我が騎士よ――」


 王女の返事を聞いて、とうとうユーグの目から涙があふれ出た。

 列席している騎士たちからも嗚咽がもれている。


 ユーグが声を上げた。

「我らすべての王国騎士は、イリアティナ・デル・ローシェ王女陛下に永遠の忠誠をお誓い申し上げます!」

 宣言のあと、王女の右手がユーグに向かって差し出される。

 ユーグは体を震わせながら、恭しく王女の手の甲に口づけた。


 王女は堂々たる姿を保ったまま、ユーグの誓いの口づけを受けた。

 金髪がまるで太陽の光のように輝きを放っている。

 騎士たちは自分が守るべき姫君の美しさ、威厳のある姿に陶然とした。


(なんという美しさ……)

(まるで美の女神のようだ)

(あれが我らが命をかけてお守りする姫君か……)

 近衛騎士や騎兵隊以外の騎士たちのほとんどが王女の顔を見るのが初めてだった。


 王国では、王女のうちは近衛兵や近習以外には、その美しさ故になるべく顔を見せないようにしていた。しかし、王位継承者第一位の資格をすべてクリアしたイリアティナ王女は、女王として騎士たちに顔を披露することにしたのであった。


 王女が力強く宣言する。

「我が騎士たちよ。貴公らは民を守る盾であり、国の敵を討つ矛である。決して裏切ることなく、欺くことなく、弱い者に慈悲を、強い者に臆することなく立ち向かう勇気を、常に騎士である身を忘れずに我がローシェ王国の誇りであれ!」

 朗々と誓いの言葉が大広間の隅々にまで響き渡る。


 ザッザッザザザッ

 誓いに応える騎士たちの最敬礼で広間に小気味よい音が鳴った。

「「王女陛下、万歳!!」」

「「ローシェ王国万歳!!万歳!!」」

 騎士たちが声を上げる。

 大広間が歓声に包まれた。


(リハーサルと違いすぎるな……)

サカキはカーテンの陰でそっと見ていた。

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