第8話



 国王が口を開く前に、左右に陣取ったオリバーとクラウスが異を唱える。



「それはなりません、危険です!」



「せめて、わたしを同行させてください、姫君。必ず御護りいたします」



 クラウスの言葉にオリバーが噛みつく。



「護る? 何を云っているのか。ライオネル帝国の王子殿下がそばにいることほど、姫にとって危険なことはないでしょうに」



「では、オマエが護れるというのか。筆と算術で姫君を御護りすることはできない」



「アラケラスはまがりなりにも南方の賢者です。さらには錬金術者、剣と脳筋がなんの役に立つというのですか? 算術に明るい分、わたしの方がマシだ」



 この二人のいがみ合いは今日もかわらない。そのせいで、まったく話がすすまない。



 本当に、なぜこの場にいるのかしら。お互い嫌いなら、顔を合わせなければいいのに。まったく迷惑な話しだわ。




 国王が咳払いをし、ようやく静かになった謁見の間。



「姫と従者だけで? 危険ではないか?」



 改めて問われたエリーゼは、国王に笑顔で応えた。



「ご心配には及びません。この大陸で最も古語に詳しいのはわたくしであると自負しております。算術もそこそこできますが、残念ながら算術で古語は解読できませんから不要です。それに同行する従者は護衛として、ここにいるどなたよりも腕が立つ者です。そのことはクラウス殿下みずから身に覚えがあるのではないかしら」



 オホホ。



 一国の姫君らしからぬ嫌味を散りばめ、まだ何か云いたげなオリバーとクラウスを黙らせたエリーゼは、「それともうひとつ、国王陛下にお願いがございます」と、真摯な目を向けた。



「魔竜についてです。もし、生存していたときは、解呪した者の責任として、魔竜の生死にかかわる処遇を一任してはもらえないでしょうか」



「ルーベシランの姫は、魔竜を制圧できる術をお持ちか?」



「いえ、いまのところはありません。しかしながら、古竜に関しては制御する術を持っております。その知識が魔竜に通用すれば、貴国に被害が及ばぬよう、最大限つとめさせていただくことを誓いましょう」



「わかった。姫に一任しよう。それでは余からもひとつ願いがある」



「なんなりと」



「できれば、自国の危険は排除したいものだ。たとえそれが、息をしていようが、していまいが。叡智の姫ならわかるであろう。我が目に触れぬようにすることは可能であるか?」



「ご賢明な判断ですわ。しかと承りました」



「ありがたい。ルーベシラン王国とは今後も良い関係を築きたいものだ。姫君が女王として君臨する日をこの目でみたいものだな」



「まあ、それはいささか気が早いですわ。我が父は健康そのものですから」



 和やかなまま、謁見は終了し、エリーゼは客室へと戻った。



 まったく、オリバーとクラウスが邪魔しなければ、もう少し早く終わったのに!



 客室に戻るなり、エリーゼはグロリアに指示をだした。



「リア、話はついたわ。さぁ、今すぐディアモン山に行くわよ!」





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姫君のストラテジー 藤原ライカ @raika44

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