天使は誰 （リメイク版）

ー真希ー突然の

43話

金曜の生放送。咲き誇って群青、凄く良かった。

優大君の歌が上手でびっくりした。 プロだからっていうのを抜きにしても歌ってる所、かっこいい。

そういえばVanillaってバンドのボーカル、ハル君だ。

雰囲気変わってて直ぐには分からなかった。

金髪だったのに黒髪にしたんだ。

前より落ち着いた感じになってる。

藍来に似てて、かっこよかったな。

見た目が変わっただけなのに、こんなに別人に見えるものなのかな？

バンドを趣味でやってるって付き合ってる時に知ったけど、まさかメジャーデビューしてたなんて。

最近、テレビに出始めたみたいだから知らなかった。

まあ、咲き誇って群青には敵わないけどね。

活動再開したのが嬉しくて、また見たくなった。

今日は土曜日で仕事が休み。朝から咲き誇って群青を見ていた。

もう、午前10時を過ぎてた。

録画した生放送の音楽番組をもう1度見ようとしたら

突然、インターホンが鳴った。

誰かな。もしかして優大君？ 約束してないんだけどな。

モニターを見た私は驚きのあまり、フリーズした。

「真希、俺だよ。久しぶりだね」

マスクしてるから一瞬分からなかったけど、ハル君だ。

別れたはずなのに、何で訪ねてくるの。

連絡だって、もう取ってないのに。

ドアを開けると、マスクを外して微笑んでるハル君が

「めちゃくちゃ会いたかった。」

抱きしめようとしてきたから拒んだ。

なのに、可愛いって言われた。

意味が分からない。

「ハル君、何か用？ 」

何しに来たの。早く帰ってほしい。私とハル君は、もう無関係なのだから。

「真希。会えない間、俺頑張ったんだよ。やっと、迎えに行けるなって。遅くなって、ごめんな」

「いや、もう別れてるんだから……」

「いつ別れるって言った？ 俺はそんな話なんて、1度もしてないよ」

今思えば確かに別れると、はっきり言った訳ではない。

自然消滅したと思ってたんだけど、違ったの？

私は放ったらかしにされてたんでしょう。

今更、何なの。

「大切な話があるんだ。寒いから中に入れて」

話ってなんだろう？

2月でまだ気温が低い。風邪でも引かれたら困る。

立ち話もなんだからと仕方なく部屋に入れることにした。

「ありがとう。部屋に入れてくれて」

「カフェオレ、いる？持ってくるね」

どうせなら好きな飲み物を持ってきてあげよう。

いつも好きなのを、たまたま覚えてただけ。

粉を溶かすやつがいつもハル君の家に置いてあった。

毎日のように飲んでた。

カフェイン中毒になるんじゃないかって心配になったっけ。

立とうとしたら、手を掴まれて引き留められた。

「カフェオレじゃなくて、今はアールグレイが良いんだけど。それもいいや」

アールグレイって、藍来の好きな飲み物だ。

いきなり抱きしめられて、思わず言ってしまった。

「何するの離れて」

「ふふ。いい匂いがする。大好き」

止めてよ。抱きしめてこないで。私はハル君を好きじゃないんだから迷惑。

香水の香りがする、甘ったるいムスク。

慌てて離れたら、ハル君が舌なめずりをした。

目を見たら、怖くなった。

狂気を孕（はら）んでるように見えたから。

見つめないで。死にそう大好きと言われた。またくっついてくる。

「離れて、今す……んんっ！？ 」

口を手で塞がれた。耳元で声が聴こえてきた。

「信じてもらえないかもしれないけれど俺、藍来でもあるんだ」

嘘だ。もう居ないのに。私の元から消えてしまったの。

ハル君が何を言ってるのか意味が分からない。

私が他の男性と付き合ってるから、居なくなったはずでしょう。

「もっと言えば、藍来の記憶を持ってる。だね」

記憶があるって、どういうこと？

そんなの有り得ない。

でも、ハル君から藍来って名前が出たのは？

もしかして本当なのかな。確かに言われてみると雰囲気が似てなくもない。

どうやってそうなったのか、分からないけど何だか不気味。

「ねえ、真希は優大さんのものじゃないよ。わかってよ」

さっきから低い声で囁いてくるから、嫌でもドキドキしてしまう。止めて、そんな事しないで。

「彼を忘れさせてあげるね、愛してるよ」

そんなとろけるような言葉を言わないで。

声も甘ったるく感じて、尚更怖い。

私が好きなのはハル君じゃないから。

優大君なの。

「俺だけの真希で居てほしかった。ずっと」

耳にあたたかい感触がした。違和感でしかない。

「可愛い。本当に食べちゃいたいくらい」

もしかして、舐められてる？

「導いてあげるね。もう他の誰のものにならないように」

こんなのおかしい。部屋に入れるんじゃなかった。

嫌、助けて。