第二話 囚われの姉
「来いっ!不届き者めが」
おじさんに捉えられ、引きずられるように屋敷の近くにあった納屋の中へ連れ込まれる。
納屋の中には木で造られた牢屋があった。薄暗くじめっとしていて小汚い。いかにもネズミとか虫が出そうだ。こんなところに閉じ込められるなんて悲惨。
「無理無理無理。勘弁してくださいよ!」
「黙れ!盗人め」
「だから違うって!」
話しの通じない人だなと悲鳴に近い声を上げながら手足をばたつかせて抵抗をする。
しかし、あっけなく抑えられ、ドサッと鈍い音を立てて牢の中へ。外からどでかい南京錠で鍵を掛けられる。
「若君が来るまでそこで待っておれ」
「噓でしょ⁉」
「お前のような狂暴なおなご。きっと打ち首にしてくれるわ」
格子にしがみついた私に冷たく言い放ち、おじさんがガシャガシャと音を立てて納屋から出ていく。
――♡――♡――♡――
中を照らす光が更に減り、一気に薄暗くなる納屋の中。どこからともなく『チュー』と小動物の鳴く不吉な声が聞こえてきて、ぞわっと背筋が震えた。
やばい。大ピンチだ。どうしょう……。由乃が居なくなった手掛かりを探すはずが、どうしてこんな目に? こうしている間にも由乃が助けを求めているかも知れないのに。
「はぁ……」
溜め息しか出ない。とりあえず持ってきた荷物を床に広げ、逃げ出す手段を考える。
懐中電灯、お菓子、水、スマホ、財布、虫よけスプレー、化粧道具、腕時計、キャンプ用品。
今のところ使えそうなものが何もない。食料と水はあるからいいとしてもスマホも使えないし、助けも呼べない。これじゃ逃げだすのは無理だ。困った……。
そんな風に困り果てていると納屋の扉が開いた。顔を上げて見れば、さっきの美青年だ。
確か『若君』とおじさんに呼ばれてたっけ。頭領がどうのとも言ってたし、きっとこの人はその頭領とやらの息子。
こうやって改めて見るとイケメンだ。力強い二重の目と高い鼻、形のいい唇にシュッとした輪郭、1つに纏めた柔らかそうな黒い髪。背も高くて体格もマッチョ過ぎず男らしい。体幹が良さそう。
何よりクールそうなところが堪らない。涼しげな顔が好みど真ん中。この人が芸能人なら間違いなく推しリストに入れる。
但し、今の私にとって彼は敵。牢の外から珍獣を鑑賞するような視線を向けられ、ふてぶてしい目を向ける。
――♡――♡――♡――
「琴葉と言ったか」
「はい。そうですが」
「随分と変わった衣を着ているが。いったい、そなたはドコから参った?」
牢の前に膝を突き、若君様は整った顔をキリッと引き締める。その視線は私の膝元、床に広げた懐中電灯の方に向かっている。物珍しい物でも見るように。
「山の向こう側から来ました」
「山の向こう?」
「山の向こうにある××市××区からですよ」
「聞いたことがないな……」
私が詳しい住所を言うと若君様は考え込むように眉を潜めた。視線は相変わらず懐中電灯の方だ。鎧のおじさんもスプレー缶を怖がってたし、もしかしたら他の物もここらじゃ珍しいのかも知れない。
いったい、どんな田舎だよ。山奥の集落でももっと都会的だ。孤立した離島でもあるまいし、時代がそんなに遅れるとかあり得る?むしろ、ここはドコなの?気になって尋ねてみる。
「ここの村の名前は何ですか?」
「
「蛇忍村?」
「代々、我が伊之村一族が統治している」
クールな顔付きのまま説明されたが、さっぱりだ。 聞いたことがない。山を挟んだ向こう側のはずなのに。
単純に私の知識が乏しいだけかも知れないが、お互い知らないのも変。これはもしかすると別の次元に迷い込んだのでは……?と、そんなファンタジーな考えが頭の中を巡る。
「とにかくだ。頭領が会いたがっているので謁見の間まで来てもらおう」
「頭領って村の1番偉い人ですか?」
「村だけじゃなく我が一族の長だ」
「長ですか……。そして、あなたがその方の息子と」
「さよう。
「清虎様ですか。随分と古風なお名前で」
涼しげな目付きで自己紹介をされ、右にならえで私も再び名乗る。しかし、琴葉の名前が言の葉に聞こえるらしい。何度も言い違えられる。
――♡――♡――♡――
「琴葉ですよ。若様」
「ふむ。分かってはいるのだが。どうもな」
「ダメです。ほら。プリーズ、リピートアフターミー、琴葉」
「プリーズ?」
「こ、と、は」
「言の葉……」
練習をさせて見たがあまり意味はない。その間に若君様の手によって南京錠が開く。
外に出てくるように促され、慌てて荷物をリュックに片付け牢を出る。納戸の外に足を進め、先ほど通った道を通り、屋敷の方へ向かう。
異世界で忍者無双。若君様に愛されたいでござる。妹を捜索の巻。 柚木ミナ @yuzuki-mina
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