異世界で忍者無双。若君様に愛されたいでござる。妹を捜索の巻。

柚木ミナ

第一章「異世界へGO」

第一話 妹を探して山の中へ



 どうも。皆さん。主人公の真田琴葉さなだことはです。年齢は23歳、職業スポーツクラブのインストラクター。友達からはクールに見えて間抜けな子だとよく言われています。


 両親は海外住みで私と8歳下の妹は都会にある実家で2人暮らし中。姉妹二人三脚で協力し合って仲良く家事をこなして暮らしています。



 この私の妹。自慢じゃないがメチャクチャ可愛い。清楚で儚げ、純情で可憐。長い睫毛、色白の肌、薄く色づいた頬、血色のいい唇。全てが可愛い。


 コテッと首を傾げて微笑む姿はまさに天使。一度ひとたび、話せば庇護欲がフル活動。老若男女問わず虜になること間違いなし。



 顔も可愛ければ声も可愛く、スタイルも良くて上から下までパーフェクト。我が妹ながら惚れ惚れするくらいの絶世の美少女。


 勿論、見た目だけじゃなく中身もいい。優しくて思いやりがあって甘え上手。頑張り屋で健気で困ってる人がいたら透かさず手を差し伸べるような正義感も持ち合わせている。



 中学3年生で思春期真っ只中というのに、素直で優しい妹は反抗心を芽生えさせることもなく、姉の私にメチャクチャ懐いてくれてる。


 

 控えめに言って女神。推し。アイドル。神様、姉妹にしてくれてありがとうって感じ。本当に好き。大好きなのに。



「由乃ったら、いったいドコへ行ったの……」



 そんな目に入れても可愛くて堪らない妹が3日前から帰ってこなくなった。遊びに行くと家を出ていったきり行方不明。連絡も無し。警察の人も一緒に探してくれているが、手掛かりすら見つからない。



「何か事件に巻き込まれたんじゃ……」


「ドコかで動けなくなってるとか」



 一緒に由乃を探してくれていた近所のオジサンとオバサンが不安気に顔を曇らせる。 私の顔は更に生気がないであろう。



 あれだけ姉思いの素直な妹が家出はあり得ない。だとしたら……嫌な予感しかしない。 だけど、絶対にそうだとは信じたくない。妹は生きてる。100%元気に生きてる。だったら私が探すしかない。



 そう思い立ち、最後に行った場所であろう学校の裏山に向かった。草木が生い茂って本格的な山だ。とはいえ、適当に歩けば降りてこられるようなミニサイズの山。


 正直に言って、ここで遭難するとは考えにくい。近所の子どもなら1度は遊んだことがあるような場所だし、私たちもよく遊んだから。



 何なら真っ先に探したもん。だけど、隅々まで捜索しても手掛かりはなかった。


 もし、ここに居るとするなら何か事情があって動けなくなっているのかも知れない。そうなっているだけと信じたい。だから装備を整えてこうやって訪れたのだ。自分の手でユノを探すために。



 ――♡――♡――♡――


 ザクザクザク、と草木を踏み荒らす音が山道に響く。少しばかり肌寒い、秋の夕暮れ時。



「うぉぉぉー!由乃ー!」



 持てる力を最大に使って山道を全力疾走。頭の上から落ちてきた枯葉が線を描き、頬を撫でた。途中でイノシシがウリウリしてきたけど、無視。とにかく由乃を見つけるのが先だ。



 「由乃、由乃、由乃~!って、え?」



 とにかく大絶叫しながら獣道を走ること数分。突如、開けた場所に出た。行き着いた先はボロボロに朽ちて廃墟と化した神社の前。いかにも肝試しに出てきそうな場所だ。


 何かちょっと怖い。それでも恐る恐る古びた鳥居をくぐり、壊れた社を覗いたり、周りを一周してみる。しかし、何もなければ誰もいない。



「ココにも居ないか」



 諦めて戻ろうと鳥居をくぐる。だが、違和感。振り返って見てみれば、数分前に見たときはボロボロだった鳥居が綺麗になっている。



 そんなバカな。半信半疑で目を擦ってみても鳥居は綺麗なまま。周りの道も雑草が短くなってたり、木が低くなっていたり、何だか違って見える。



「あれ?おかしいなー」



 まさか別の道に出てきた? 不安になり再び鳥居をくぐる。そのまま社を一周すると、来たときと同じ道に出た。鳥居も最初に見たのと同じ。古びた姿になっている。



 おかしい。そっくりなのに違う道。小さい神社だし、壁に沿って歩いているのに他の道に出るはずがない。表から見ても入口は1つ。建物を囲うように竹が生い茂っていて他の道があるようには見えない。



――♡――♡――♡――



「もしかして由乃も間違えた?」


 可能性はある。だったら進むべきだ。そこに由乃がいるかも知れないなら。



 そう思い再び鳥居をくぐりグルッと神社を一周してみる。すると、やっぱり真新しい鳥居がある道へ辿り着いた。


 意を決して山から降りてみれば、見慣れた街の景色はない。田んぼと畑と山道が広がる田舎っぽい場所に着いた。



遠くの方には時代劇に出てくるような古い造りの民家が並んでいる。そこにあるはずの学校はなく、遠い昔の景色が広がっていた。



 裏山の反対側ってこうなってたっけ?いや、街の真ん中にポツンとあるような山だ。私たちが住んでいる街はビルに埋もれているような都会だし、近くにこんな田舎っぽい場所はなかったはず。



 何か変。でも、由乃が居る可能性も高いし、足を進めた。たった1%でも会える可能性があるなら進むべきだ。ここで行かなかったらそこにいる確率は0%になってしまうんだから。



 釈然としない気持ちを抱えながらもT字路を右に曲がり民家の方に向かって歩く。反対側の道に続く村に行くには時間が掛かりそうだし、まずは近くの住民に聞き込みを入れて由乃の足取りについての情報を集めようって作戦だ。



 誰も見ていないようなら逆の道に行けばいい。筋トレと同じで効率よくだ。



 「あのー、すみません!」



 古びた民家の前に着き、表の窓から中に声を掛けてみる。しかし、住人は居ないのか返事がない。他の家にも声を掛けたが全軒そうだ。誰も出てこない。



 おかしいな……。どこかに出かけてるのかな。疑問に思いながらも1軒ずつ見ながら進む。すると大きい屋敷の前に辿り着いた。古いけど他の家に比べると造りが豪華だ。地元の資料館で見た昔の家みたい。


 こんな歴史のある造りの家がいまだに存在していたなんて驚きだ。わりと嫌いじゃないし、興味津々。奥はどうなっているんだろう……と期待を胸に窓から家の中を覗く。



――♡――♡――♡――



  見えたのは囲炉裏と畳、土間のキッチン。古い造りのそれに魅入られ、人の家だということも忘れてマジマジと覗いてしまう。



 すると、ガシャガシャと金属が擦れる音が背後から聞こえてきた。振り返ると鎧を身に纏った目つきの鋭いおじさんが一人。こっちに気付いて槍のようなものを持って走ってくる。



 「お主ぃぃぃ!ここで何をやっておるっ!」



 私に向かって叫ぶ野太い声。ギラギラと光る汗。血走った目。鎧を着た雷ジジィ。



 「ひぃぃぃぃぃっ!」



 お化けでも見たような悲鳴を上げてその場にへたり込む。どこからどう見ても凶悪犯。武器も持ってるし、通り魔かも……!



 何かなかったっけ?何か、熊避けとかそういう物!ないか。だって裏山に熊はいないし、必要はないと思ってたもん。


 とにかく抵抗しようとリュックの横ポケットに入れていた虫よけスプレーを噴射する。人間に向かって噴射したところで虫が近寄らない効果しかないが。



 「うぎゃぁぁぁっ!まじぃぃぃっ」



 しかし、こちらに走ってきた鎧のおじさんは噴射したスプレーの霧を浴びて物凄い勢いで転げ回った。ペッペッと唇を震わせて顔をこれでもかと手のひらで擦っている。


 どうやら噴射したスプレーの霧がダイレクトに口の中に入ったらしい。ついでに目の中にも。



 「おめぇ、それは何だ⁉」


 「ただの虫よけスプレーですが?」


 「スプレー?何だそれは」



 警戒するように槍を構え、おじさんは世にも恐ろしいものでも見るようにスプレー缶を凝視している。



 缶の表面に“虫よけスプレー”と大きく書いてあるのに。まるで怪しい兵器か何かと思い込んでいるかのよう。もしかして虫の化身なのかと疑うくらいの怯えようだ。



 「怪しい。さては貴様、その不味くて危険なものを屋敷に散布しようと企んでたな!」


 「はい?」


 「頭領の命を狙う不届き者め。見逃しちゃおけぬっ!」

 


 威嚇でもするように鎧のおじさんが威勢のいい声で叫ぶ。持っていた槍を私に向けて、歯をむき出しにし、大真面目な顔で肩を震わせてる。



 ただの虫除けですが。本気でスプレー缶の存在を知らない?いくらド田舎とはいえ、同じ日本に住んでいて?そんなのあり得る?



 疑問に黙り込んでいると屋敷の扉がガラリと音を立てて開いた。釣られるように視線をそちらにやると扉の前に着物姿の美しい青年が立っている。


 顔立ちからして私より5歳くらい年上っぽい。整った顔をしているけど、どこか冷たい印象の男だ。戦闘状態の私たちを不思議そうに見ている。



 「いったい何の騒ぎだ」

 

 「はっ。こちらのおなごが不審な動きをしていたので捉えようとしていました」


 「まことか?お主の怯えた情けない声が聞こえたように思うが」


 「気の所為であります」



 口を開いた青年の声に応えるように、鎧のおじさんはビシッと姿勢を正し、私に槍を突きつけた。


 さっきまでの怯えた姿が嘘のような凛々しい顔だ。居心地が悪そうにスプレー缶に視線をやっているのを見るとまだ怯えているようだが。



「ふむ。お主は何者だ?」


「真田琴葉です」


「この屋敷に何用だ?」


「妹の行方を探してて。こちらの家の人に尋ねようと屋敷の中を確認してたんです」


「留守を確認するなど怪しい。盗人か」


「そんなわけないでしょう!」



 疑いまくってくるおじさんを一喝し、扉の前にいた青年に助けを乞うような眼差しを送る。



 しかし、青年は冷静な表情を崩さず「とりあえず牢に捉えておけ」と鎧姿のおじさんに冷たく言い放った。



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