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むしろ、もっとイチャイチャしたそう。
愛でるように頬を撫でられて堪らない気持ちになる。
だけど、キスをしようとしたら『風呂から出たらな』と断られてしまった。
“したら我慢できなくなるから”って確かにお風呂場でそうなられたら困るけど……。
今日はまだ1回も唇にして貰えてないから、ちょっともどかしい。
何だかエミちゃんが吠え怒った気持ちが分かるような気がする。
中途半端に与えられて逆に焦らされてるみたい。
でも、
「つか、もう朝かよ。はぇーな」
「ね。一緒に居ると時間が経つのが早いです」
「色々お前とやりてぇことが沢山あるのに時間が足りねぇわ」
「したいことって?例えば?」
「まぁ、まずは出掛けたい。買い物とかお前の好きそうな場所に行ってみたりだとか、あっちこっち」
「お出掛けですか」
「あと、あわよくばお前の作った飯も食いてぇし、お前の趣味にも付き合いてぇし、普通に喋ったりもしてぇな」
「マッタリもしたいんですね」
随分と平和な望みを口に出しながら、先輩は湯船に浮かんだ泡を指で弾いた。
一緒に遊びたいし、のんびり過ごしたいのもあるんだろう。
ドコに行きたい?だとか、何を食べたいだとか、そんな話で軽く盛り上がる。
――♡――♡――♡――
世間一般の恋人がしているようなことを“してみたい”と言うよりは、“してあげたい”と思ってくれているのかも知れない。
先輩の口から映画だとか遊園地だとかクレープ屋だとか、いろいろと似合わないワードが出てきて驚きだ。
『お前、そういう好きだろ』って確かに好きだけど、楽しんでる先輩の姿が想像できない。
彼の中では楽しんでる私と過ごせるなら何でもいいらしいけども。
夜景だとかご飯屋さんだとかショッピングだとか、色々と欲しい物や行きたいところを後で一緒に探そうだなんて。
甘やかされすぎて我儘になってしまいそう。
そして、そんな心配すらも『お前に我儘言われたり強請られるのが好きって最近気付いた』なんて言葉で封印される。
本当に抜かりがない。
「帰すのが嫌すぎて月曜日って聞くと憂鬱になりつつあるわ」
「じゃあ、曜日なんて関係なく過ごせるように、このまま先輩の家に住んじゃいましょうかね」
「住む?」
「はい。そうすれば毎日、ご飯も作れるし、喋れるし、いつでもお出掛けが出来ますし」
「ふーん。じゃ、明日お前の親に挨拶をしに行くか」
「えっ?明日?」
「さすがに黙って家を出ていくのはマズイだろ」
冗談半分で言った私の軽口を綺麗さっぱり拾い上げ、先輩はえらく真面目な顔で私の肩にお湯を掛ける。
ニコリとも笑わずに私を見つめて、真剣と言うか…、本気だ。
冗談ではなさそう。
――♡――♡――♡――
「お前の親父、明日は何時頃なら家に居るんだよ」
「お昼は予定があるって言ってたんで、夕方には居ると思いますけど……」
「んじゃ、オカンは?」
「そっちも同じく夕方には」
「婆さんは?いつ旅行から帰ってくる?」
「お昼までには……って本気で言ってるんですか?先輩」
真剣な眼差しでお母さん達の都合を聞いてくる先輩にさすがに狼狽える。
嬉しい。嬉しいけど、サラッと同意されてビックリする。
そりゃ喜ばないはずがない。
もっと一緒に居たいと言われたようなものだし。
想像しただけでも絶対に毎日幸せだと思う。
でも、まだ学生だし、そんなのお母さん達は絶対に許してくれない。
自分たちの意見だけで転がり込むのも何かちょっと違う気がするし。
――♡――♡――♡――
「一緒に住みたいんだろ?」
「そりゃ一緒には居たいですけど、さすがに住むのは気が引けるというか……」
「引かなくていい。親父なんかそんなの、しょっちゅうだ」
「お父さんを基準にしちゃダメです」
「まぁ、そうだけどよ」
やけに押し気味に来られて苦笑いを浮かべる。
そこまで言うなら……と一瞬ちょっと迷ったが、さすがに頷くことも出来ず、冗談だと言うと凄く残念そうな顔をされた。
それも目に見えて分かるくらい半端なくガッカリしてる。
声まで一気に沈んじゃって。
そこまでテンションを落とさなくてもいいでしょう、とツッコミたくなるくらい。
NARI★KITTE 3 柚木ミナ @yuzuki-mina
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