第2話

  2・大太だいた



 よう大太、「虹の橋のふもと」で元気にしてるか?

 オレ、お前に伝えたい事がいろいろあってさ、今こうして一人の部屋で、お前の写真を見ながら想いに耽ってるところなんだ。

 オレ? 元気だよ? ……と、言いたいところなんだけど、実は良いことばかりじゃなくて辛い日々を送っているよ。オレのオンナで大太の面倒もよく見てくれていたヒロミも、半年ぐらい前にこの部屋アパートを出て行っちまったしな。今ここにいるのは、オレはもちろんだが、お前の義理の姉ちゃんでもあるハッピーだけさ。まさか弟分の大太の方が、ハッピーよりも先に「虹の橋のふもと」へ逝っちまうだなんてあの頃は夢にも思っていなかったよ、ヒロミもオレの友達も、み〜んなまったく同じ意見だった。

 それはそうとして、オレは今いろいろと厄介な問題を抱えている。それが理由でつい今さっき「辛い日々を送っている」と言ったんだけど、その問題に解決の目処がついて、んで、ようやく明るい兆しが見えてきたんだ。その事を大太にどうしても伝えたいんだ。

 な〜に、実は簡単な事だったのさ、とにかく酒をやめれば良かったんだよ、たったそれだけの事だったのさ。

 あの頃は楽しかったよな。オレとヒロミとハッピーと大太の四人での暮らしは、本当に幸せだった。そういやオレのかつての愛車ロードスターが、無保険・無車検・無免許運転のバイクのガキにオカマ掘られた後、病院でもらった首に巻くコルセットを大太のお腹に巻き付けてイジったなんて事もあったな。ヒロミのやつも「まるでお相撲さんみたい」って、手を叩きながら笑ってたっけ。でもお前はその名にまったく恥じる事のないそれはそれは大きな体躯をしてたし、あれをスマホにでも撮影してネット上で公開すれば、きっともっとたくさんの人たちがモニターの前で笑ってただろうな。シャッターチャンスを逃しちまったのは今でも本当に残念だよ、なにせ猫はめちゃくちゃ素早いからな。やられた大太はたまったもんじゃなかったかも知れないけど、まあでもお前は生まれながらのイジられキャラだったんだよ、そういう星の元に産まれついちまったんだと、諦めてもらうより他ないね。

 ともかく大太、お前がまだ6歳(人間の年齢に換算すると40歳)という若さで「虹の橋のふもと」へと逝っちまってから、ただでさえダメ人間だったオレはますますダメになっちまったんだ。オレは傲慢だったし、全てにおいて他罰的な人間だった、あらゆる物事を他人や状況や酒のせいにして自分を正当化していた。でも本当はそれじゃダメだったんだよ。今では認めているんだ、まだ「虹の橋のふもと」へ逝くような歳じゃなかったお前が逝っちまったのも、ヒロミが部屋を出て行っちまったのも、その責任は全て自分にあるって。……少なくとも今ではそうだったと心から思っている。オレは本当にひどい男だったし、飼い主でもあった。でも、心の奥底から本気でそう思えるようになるには、ちぃとばかし時間が必要だったんだ。

 言い訳をする気は一切ない。だから頼む。今夜は一つ、そう思えるようになるまで一体どんな出来事があったのか、「批判やお説教は一切ナシ」にして、じっくりちゃんと最後まで聞いてくれ。もちろん、これが虫の良すぎる要求なのは自分でもよく分かってるんだ。でも、これからオレが話す内容は、あくまでも、当時まだ酒飲みだったせいで、未熟で他罰的で攻撃的だった自分の気持ちの再現に過ぎないんだ。

 だからちゃんと最後まで聞いて欲しい。

 念のために言っとくが、もちろん夜だからって、オレ、酒は一滴たりとも飲んでないからな。



 …… そしてもう一つ言っておきたい事がある。もう二度と、絶対に、酒を飲んだりはしないからな!

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