第15話

「手紙で読んだけど、なかなか大変だったね、北斗もお疲れ様」

 慈しむような優しい微笑みを浮かべるザクラちゃん。白い花嫁衣装だからか、やたらと神々しく思える。

「…ザクラちゃん、すごく綺麗だよ」

「ありがとう」

「俺、海救主として戦うザクラちゃんの姿をずっと後ろから見ていたけど、戦う姿もとても素敵だった。でも今日は、それ以上にとても綺麗だよ」

 ザクラちゃんが海救主として戦ってきたあの日々を思い出した途端、目頭が熱くなって泣きそうになる。

「…北斗。泣きそうな顔してるよ」

「ごめん、なんかあの時のザクラちゃんを思い出してきたら泣きそうになってきちゃって」

 小さい頃にウィーン・ウォンドに狙われて、自分を庇ってお母さんを亡くしたザクラちゃん。海救主になってからも過酷な戦いをして時に泣いて苦しんだ日もあっただろう。

「…ザクラちゃん」

 まだ式が始まっていないのにすでにボロボロ泣きかけている俺を見るザクラちゃんも目が赤い。

「絶対に幸せになるんだよ。たくさん苦しい思いをしてきた、それ以上に」

「…うん」



「おめでとう!!」

「お幸せに!!」

 世界を救った海救主様だということもあり、たくさんの人がザクラちゃんと星利の結婚式に来ていた。旅先でお世話になった人たち、旅をきっかけに交流が始まった人たち。

「いい天気だね」

 結婚式にふさわしい、雲ひとつない晴天だった。2人が前から歩いてくるのを拍手して待ちながら、隣にいる鈴ちゃんに言った。

「うう…ほんとね、ザクラのお母さん喜んでくれてるのよ、きっと…」

 そう言う鈴ちゃんは、すでにボロ泣きしていた。

「…そうだね、きっとそうだよ」

 よく見れば、あの強面のザクラちゃんのお父さんもザクラちゃんのお母さんの写真を持ちながらボロ泣きしている。

 たくさんの人に愛されているザクラちゃん。

 どうか、この先も幸せで。

「…ザクラちゃん、おめでとう」

 敵により冬のように冷たくなりかけた世界を、ザクラちゃんはその名前の通り、優しく慈愛に満ちた春の風のように吹き飛ばした。今、その春の女神の笑顔は、彼女の隣にいる星利に向けられている。

 

 俺が歩む先はきっと険しくて苦難で、そこにいる俺は「火の中にいる夏の虫」なのかもしれない。

ーーー上等だ、その火の中に入る虫になってやるよ。ザクラちゃんの守ってきた世界を、今度は俺が守っていく。

 婚礼衣装を着た幸せそうな仲間たちに俺はそう誓ったのだった。



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焔の御子 ~海の御子 番外編~ @3melody_mi

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