第12話
今度は私が黙る番だった。
質問ばかり繰り返すよりも、この方が天馬は私に向き合ってくれる気がするから。
それに──、
『お前は動揺すると質問が多くなる』
どうしてだか前に聞いたシバの言葉が頭に浮かんでいた。
天馬は一度クッと息をこぼして笑ってから、少し体を離した。代わりに前屈みになって、私と目の高さを合わせる。
「もしかして俺を“読もう”としてる? 興味なんてちっともないくせに」
蔑むようにつり上がった唇。
「こうして俺が自分から現れなきゃ、俺のことなんて考えもしないくせに」
これにはさすがにムッした。
「意味わかんない」
酒にでも酔ってるのかと思ったけど、そんな雰囲気じゃない。天馬は多分素面で、そして今までになく真剣だった。
論点がずれてきていること、彼が私の手に負えそうもないこと、距離が近すぎること。色んなことが無理だと感じて、私は天馬の腕から抜け出そうとした。
「ほらまたそうやって」
天馬は私を逃がさなかった。掴まれた肩が痛い。そこはさっき男に力任せに押さえられた場所だった。
「簡単に目を逸らす。面倒から逃げ出す。──本当の俺を、見ようとはしない」
頭に血が上った。自分でもそれがわかった。私は天馬のシャツの襟を掴んで、顔に唾を飛ばす勢いで怒鳴った。
「ホントの俺とかって、何!天馬は天馬でしょ!今目の前にいる天馬が、私が知ってる天馬!見えない所で何してようと、そんなこと知らない!相手が小澤さんだって、いちいち探ろうとは思わない!親しい人にそんな面倒なことしてたら、気がおかしくなっちゃう!私が見るのは目の前の一つ!同時進行とか、裏を読むとか、もううんざり!」
急に出した大声に、酸素が足りなくなったのか一瞬くらりとした。でも気は済んだ。天馬が驚いたように、数回瞬きを繰り返していたから。
「もういい。送って。きっと終電いっちゃったから」
ぞんざいな口調で言えば、私から手を離した天馬は、私には大きめの黒いヘルメットをポンと投げてよこした。やっぱり無表情のままだったけど、もうそんなのどうでもよかった。
言葉より、キスより ㊦【完】 深月 翠 @suimizuki
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