第11話

それでも天馬は私の反応なんてどうだっていいのか、ヘルメットを差し出す。その行為に、私はなおさら意固地になった。


「やだったらやだ」


 言って、歯を食いしばった。唇も強く結ぶ。私は流されないぞ、と態度で示したかった。どうせ言葉なんてあっさり無視されるから。


「──」


 一度は持ち上げたヘルメットをバイクシートに置き直して、天馬は少し首を傾げる。思案する、といった仕草は、天馬の感情が読みとれるようで安心した。


 やっぱり私をじっと観察する視線はそのままだけれど、それだって今までよりは光彩が柔らかくなった気がする。


 にらめっこは、私の勝ちのようだった。


 天馬が、動いた。


 バイクの後ろからぐるりと移動し、仁王立ちに近い体勢の私の前に立つ。


「知りたがり屋の“ T ”」


 僅かに身を屈め、いじめっ子の口調で言って唇を歪めた。


「情報屋の馬宮には言われたくない」


 その切り返しが面白かったのか、天馬はまたさらに表情を崩した。でも、まだ意地悪な顔だった。


「お金払ってみる?そしたら教えてやるよ。さっきのお兄さんに何言ったのか。どうして俺が今ここにいるのか。社長と俺が契約中かどうか。…探してる人物が今どこにいるのか」


 ぐっと顔が近付いてきたから、私は思わず顎を引いた。


 その動きに天馬は私が逃げ出すとでも思ったのだろうか。腰に手を回して自分の方に引き寄せた。


「お金がないんなら、体でもイーよ。俺とシたらきっと、T の知りたいことが一気に見えてくる」


 ふざけてばっかりの天馬。はぐらかすのが大好きな天馬。


 だけど、どうして?


 寝たら知りたいことを"教えてあげる"じゃなくて、知りたいことが“見える”だなんて。


「ほっそい腰」


 馬鹿にしたように鼻をならされても、私は眉を顰めたまま動けなかった。

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