第10話
ふっと軽くなった肩。だけど私には、事態が好転したとは思えなかった。
いとも簡単に男の腕を──あらぬ方向に捻り上げた天馬は、そのまま男の耳に顔を近づけると何かを囁いて、あっさりと手を離した。
「みつやっ…!」
恐らく男の名前なのだろう。悲壮な声で呼びかけながら男に駆け寄るのは、恐喝まがいの行為に困っていた筈の女性。
彼女は怯えた目で私たちを確認し、それ以上の暴力行為から男を守るように天馬に背を向けて男の体に腕を回した。
「離せよっ」
みつやと呼ばれた男はそれを乱暴に払い、間接の外れた肩を庇いながらフラフラした足取りで大通りの人の流れに溶け込んでいく。
その後を追うことはなかったけれど、縋るような視線で男が消えていった人混みを見つめ続ける彼女に、私はどう声を掛けたらいいのかわからなかった。
「男退場。女解放。…満足だろ、T 」
投げやりに結論づけて、天馬は私の手首をとった。
手を引いて歩くというよりは、面倒くさいからさっさと連れて行こうという雰囲気がありありな素っ気ない態度。
私は自分の手首とそれに続く彼の腕を見ながら、たくさんの疑問の中の、取りあえずの一つを口にした。
「…さっき、あの男の人に何て言ったの?」
「──」
天馬は答えない。こちらを振り向きもせず、少し歩調を早めて大通りへと進んでいく。
「女の人、天馬の知り合いじゃないの?」
これにもまた返事なし。
「今日会ったのは偶然?それとも誰かの依頼?私まだ小澤さんに心配かけてる?」
天馬の足が止まった。質問に答えてくれるのかと思ったら、どうやら違ったらしい。
幅の広い歩道に停めてあった大きなバイクの横に立ち、ジーンズの後ろポケットからキーを出した。
「送る」
「やだ」
即答した私に、天馬は片目を細めた。
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