第29話

第13章


珉珉は、土竜と蘭蘭を探した。土竜の姿が見えたので、すぐ後を追う。

蘭蘭は軽功を使っているようだ。土竜も軽功で追っている。珉珉もすぐ軽功に切り替えた。たちまち二人に追いついた。蘭蘭が本気で逃げれば、追いつけないのはわかっていたが、どうやら私達を持っていてくれたようだ、と珉珉はほっとした。


街はずれまで来て、まだ進む。荒地に向かっていた。

もう、周りに人の姿はない。小山になっているところで、蘭蘭は止まった。

土竜と珉珉を見て、その場に座る。その横に土竜も座る

「ふたりともお衣装がだいなしだ。」と珉珉が言うと、蘭蘭が小さく笑った。土竜は笑わない。


「教えてくれてもいいんじゃない。」と珉珉が二人の前に立ったまま言った。蘭蘭が顔を上げる。土竜は顔を伏せた。

蘭蘭が性悪そうな顔になり、土竜に向かって、

「あんたがきちんと教えて上げたら。」と言う。土竜は、顔を上げて、蘭蘭をまともに見て、また目をそらした。

「土竜、教えてよ。」と珉珉が言った。土竜はまた下を向いていたが、嫌がっているのではなく、考えている。それは珉珉にはわかっていたから、じっと待っていた。

土竜が顔を上げて、珉珉に言った。

「崑の叔父上に初めて会ったとき、河家には、娘が二人いると聞いていたが、と言ったのを覚えてる?」

珉珉はうなずいた。

「私も蘭姉さんも男の格好だったし、土竜一人が娘の格好だった。だからでしょ?」という珉珉の顔を土竜はじっと見る。

「叔父上が、私達の変装を見破れないと思うか?」


なんだか、珉珉は涙が出て来た。わかってるような知ってたような。でも怖かった。

「いやだ、やっぱり聞きたくない。」と珉珉が言うと、

(聞くのよ、珉珉)と頭言葉が聞こえた。珉珉は、はっと蘭蘭を見る。

蘭蘭は、最初悲しげに笑っていたが、だんだんニヤニヤ笑いに変わってきた。


笑ってる蘭蘭を見ながら、珉珉は言う。

「ふん。わかってるわよ。私にも今わかったわよ。叔父上も、男にしておくのがもったいない、って2回も言ってたし!」

言いながら、地団太を踏みそうになったがやめた。土の技を持つ自分が荒野で地団太を踏むと、何かとてつもないことが起こりそうだ。

蘭蘭は、たまらず大笑いをした。

「土竜も珉珉も今まで気づかなかったとはね。」笑いが止まらない。今度はお腹をかかえて笑った。


「珉珉なんて、ペチャパイって悪口を言うんだもの。」

珉珉もそれを聞いて笑った。笑い過ぎて涙が出た。土竜もつられて笑う。

「私は、おれは、蘭お嬢さんがずっとずっと好きだったんだ。」

珉珉は、土竜の背中を叩いた。

「知ってたわよ、ばーか!」

「私に惚れない男なんていないのよ。」と蘭蘭が言い、また三人で大笑いになった。


ひとしきり笑って、蘭蘭が、

「さてどうしよう?」と言うと、珉珉が、

「もう家には帰らない。」と、強い決意を持っていう。

「私も、姉さんたちのところへは行かない。」と土竜が言い、

「珉珉と一緒に行く。」と珉珉を見た。珉珉が蘭蘭を見る。

「蘭姉さまはどうする?」

蘭蘭が

「もちろん、あんたたちと一緒よ。双子種にされるのなんて、真っ平ごめんよ!」と言うと、珉珉も土竜も黙った。蘭蘭は二人に向かってニタッと笑い、

「それに、私がいなければ、あんたたち、今夜にも野垂れ死によ。」と言って、懐からたくさんの金子を取り出した。


「うわ、さすが姉さま!」と珉珉が言い、

「姉さまって呼んでいいんだね?」とちょっと心配そうな声を出した。

蘭蘭はにっこりして、

「そうよ、姉さまでいいわ。でも、ときおり天兄さんにもなる。」と言って、土竜を見た。土竜は、ちょっと赤くなって

「立ちションももう忘れちゃったし、私は鈴鈴で行く。本当の妹になってもいい?」と恐る恐る聞いた。

「もちろん!」と蘭蘭は笑い、珉珉も、土竜の肩に腕を回し、

「この龍兄さんの大事な妹だ。」と抱きしめる。


蘭蘭が、衣装の砂埃を払った。

「まずは、助けた双子の豪華な屋敷に行こう。そのときは、私は天兄さんだ。」

「男だけでなく、女の子もみな蘭姉さまに夢中になるのね。」と土竜が言う。


三人は、笑いながら荒野を進んでいった。


「でも、師母が蘭姉様を女の子として育てたのは、双子種にしたくなかったからだと思うわ。」

「それに、姉さん達をいけにえにしなくて、明王朝は大丈夫なのかな。」

「ま、どうでもいいよ。これからは三人ずっと一緒だ。」


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上海双子武芸帳 ―双竜教復讐譚― ぴぁっちゃいん @pyattyainn

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