第89話
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「…うん。大きな傷もないみたいだし、そのまま様子見て大丈夫だと思いますよ」
「そうか。目が痛そうだったから心配した」
そう笑った久保の髪を、風薫る5月の風が揺らした。
日向・飯野城。
ここが島津久保の居城。
令和で言う宮崎県えびの市。
飯野城は元々は久保の父親の島津義弘の居城だったが、九州征伐の時の
その史実、あまり知られていないことが悔しいんだけど。
もちろん俺は令和で飯野城跡に行ったことはある。
だけどやはり400年という時の壁は想像より遥かに高い。
今目の前に広がる飯野城は一つの山を丸ごと武装したような感じで、俺が想像していたより軽く数倍はでかかった。
令和ではこんもりと木に覆われた小山みたいな感じでひっそりと佇んでいるから。
始めてここに来た時、あの飯野城の往時の姿を拝めて正直めっちゃ感動して泣きそうになっていたら、若干久保に引かれていた気がする。
「よかったな、ヤス」
まだ生後2ヶ月ほど。
子猫同士の戯れる兄弟喧嘩がヒートアップした子猫の目を診ていた俺は、大丈夫と太鼓判を押す。
久保は茶トラ白の子猫を俺から受け取って、うりうりと愛でている。
それに、俺は微笑ましいと同時に不思議な感覚になった。
…ヤス。
彼のその腕の中にいる茶トラ白のオス猫の名前『ヤス』は俺の予想通り。
そして。
「ミケも、あまり暴れてはならぬぞ?二人とも怪我をしてしまう」
彼の傍で走り回っている三毛猫の名前も…また俺の予想通りだった。
「子猫が暴れるのは、元気に育ってる証拠です」
俺は笑って、思い出す。
鹿児島市の仙巌園にある
そこに祀られている猫2匹は名前も残っていて。
その名前は。
「こら!だから喧嘩するな!ヤス!ミケ!」
————————ヤスと、ミケ。
…間違いなく、俺の目の前にいるこの猫達だと確信する。
そして2匹のうちの一匹の茶トラ白を、『ヤス』と久保が自分の名前与えて特に可愛がっていたということはしっかり伝わっている。
この久保の逸話のおかげで、鹿児島では令和でも茶トラ猫の事を親しみを込めて、こう呼んでいる。
——————ヤス猫、と。
「…全く、お
まわりでぴょこぴょこと走り回っている三毛猫のミケを久保は抱き上げて溜息をついている。
因みにミケは姫が名付けたと聞いた時、俺は心底切なくなったのを覚えている。
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