第81話

…連れていきたいところがある。







そう言われて馬に乗って、川内川に架けられた橋を渡りながらふと今さっきまで自分たちがいた飯野城を振り返る。








一つの山を城郭化したその大きさは、中にいるよりも離れてみてよく分かった。










「お城…結構大きいのですね」








馬、久保様の前に乗せられるのは、もう慣れた。








「そうか?子供の頃からいるからよくわからないな」








久保様は平然と答えるけど、薩摩の平城育ちの私からしたら飯野城は戦闘向けの城のようなもの。






確かお生まれは加久藤城だったと思って、ふと聞いてみた。







「幼き頃は加久藤城と飯野城、どちらにいらしたのですか?」







「…母上がいるのは加久藤だが、…物心ついたときから父上と母上の仲が良すぎて見ていられなくて…殆ど飯野にいた」







「まぁ」








口ではそんなふうに言っているが、そんな御父上と御母上の元で育ったから、こんなにも心優しい御方になられたのだと思う。







「…今度母上に挨拶に参ろう。急いでいくと言ったら、ゆるりとしてからでよいと言ってくださった」








久保様の御母上。 





とてもお優しい方だと聞いている。






  




「明日、参りましょう」






「明日?!」






「久保様の御母上です。早くご挨拶せねば」







「…祝言の後に会ったじゃないか」







「私はこの飯野に嫁に参ったのですから。早々にご挨拶を」







…会いたくないのかしら。





久保様は少し考えていたようだけど、ひとつ息を吐いた。








「父上が京に発ってからと思っていたが…いいか。片付けておこう」








「…片付ける…?」







「父上と母上が揃うと、息子の私の前でもお構い無しだから。そういう恥ずかしい所…そなたには見せたくない」







…ご両親、どれだけ仲が良いのかしら。







くすくすと笑うと、久保様は『あとから三右衛門を馬で加久藤まで走らせよう』と呟く。








三右衛門は、久保様の身の回りのことをする13歳の少年。







父親が足軽で、戦で焼け出されたを久保様の御父上に拾われたらしく、とてもいい子だった。









「そんなに近いのですか?」







「一里くらいかな。飯野城と裏山で繋がってるんだ。馬で行き来できるようになってる」








やはり、私には想像がつかないけれど。







そんな他愛ない話をしながら、ゆっくりと馬が真幸の里を歩く。








4月の空は晴れ渡っていて、田畑も緑で溢れていた。

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