第79話
ここで、貴方様と共に生きる。
久保様の腕の中で、飯野城に降り注ぐ朝日を浴びながらそう思うと。
幸せで。
「…今まで生きてきた中で、今が一番幸せでございます」
お慕いする御方の腕の中で、息をする。
誰にも邪魔されずに。
好きなだけ、こうしていられる。
彼は、そんな私を抱きしめたまま髪を何度も撫でてくれる。
「…あぁ。幸せ、だな…」
貴方様の行動ひとつで、言葉ひとつで。
世界が違って見える。
これを恋と言わずに、何と呼ぶのだろうか。
初めての感情に、戸惑う。
だけどその戸惑いすら、貴方が笑い飛ばしてくれるから。
幸せだと思う。
久保様の腕の中は温かいから、柔らかい眠気が襲ってくる。
「…眠くなってくるな」
同じことを思っていたようで、彼の口から漏れた言葉に小さく笑う。
「…まだ朝早い。もう少し、寝てしまおうか」
久保様はまるで寝かしつけるかのように私の頭をぽん、ぽん、と優しく撫でてくれる。
「…よいのでしょうか?誰か来てしまいませぬか?」
「…ここは私の城だからな。新妻を連れて帰った早々の城主の寝所になんて数日は誰も入ってこれないだろう。…大丈夫だ」
安心しろ、と私の頭を撫でながら呟いた久保様は静かに笑う。
「…ゆっくり寝て、起きたら城下に出てみよう」
「…城下に…ですか…?」
「あぁ。亀寿に見せたいものがたくさんあるんだ。この真幸は美しいものばかりだから」
彼の声を聞きながら、うとうとと吸い込まれるように目を閉じる。
そんな私に気づいた彼の、おやすみ、という優しい声が降ってくる。
今だけは。
戦国の世であることも、全て忘れてしまいたい。
そして愛しい彼の腕の中で、もう一度眠りに誘われる。
暖かい、春の朝の光に包まれて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます