第78話
するとふわり、と抱き寄せられる。
「どうするかな、と思っていたら…想像以上だった。…よかった」
眼の前に白い寝間着の襟元が飛び込んできて、それにも鼓動が高鳴ってしまう。
「何もよくありません…!私…はしたない…」
「…いいじゃないか。
その言葉に、動きが止まる。
まだ祝言を上げて、
…慣れなくて。
黙り込んだ私の顔を覗き込むと、彼は静かに言微笑んだ。
「…好きにしてくれてかまいませぬ。もう私の全ては貴女のものですから」
祝言を上げる前のような敬語で、そんなことを言う。
「…その代わり、貴女の全ても…もう私のもの。違いますか?」
そう言って、彼の唇が軽く私の唇に触れる。
固まった私に楽しそうに笑っている。
…この人、わざとだわ。
私が彼の敬語にどきりとするのに、絶対気づいている。
美しい容姿の久保様の敬語は、余計に彼を貴公子然とさせる。
そんな品行方正さがにじみ出る彼にそんなことを言われると。
…なんだかいけないことをしているようで。
そのまま抱き寄せられたその腕からなんとか逃げようと、もがく。
「お、起きます!まだ寝ていらしてください!」
「だめだ。なぜ逃げる?」
「久保様が恥ずかしいことばっかり仰るから!!」
「そうか?何か言ったか?」
「もう!!」
私の反応を楽しんでくすくすと笑う彼はそんなに力を入れてないようだけど、その腕から逃れることはできない。
「…そう簡単に離すわけないだろう。やっと手に入れた。私から逃れられると思うな」
低い声でそう言われてさらに強く抱き締められ、逃げられない、と思う。
いや、本当に逃げたいわけではない。
「…逃れたいなど…微塵も思うておりませぬ」
高鳴る胸を隠すように、その胸に顔を埋める。
「…やっと、…妻にしてもらえました。この飯野城に来て…ようやく実感が沸いてまいりました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます