第74話

「構いませぬよ。2匹とも連れて行かれますか?」









「はい。兄弟離れ離れにするのも、可哀想でしょう」








な?と久保様に同意を求められ、頷く。







何だかんだ言って、きっと久保様も離れがたいのだと思う。







彼はもともと猫が好きだし、あれだけ可愛がっていらした。










久保様は親匡の所に行くと、なんとか集まったらしい子猫が入った籠を覗く。








「よしよし。皆で飯野に行こうな。親匡、子猫達は元気か?」







「は…はい、逃げ出すくらいですから…」








逃げていた茶トラの子猫をなんとか捕まえ、少しぐったりしている親匡に久保様は笑う。







すると。







「若!まさか猫も連れて行くおつもりですか!」









そう叫んだのは忠継だった。









「いいじゃないか。父上が全部加久藤に連れて行ってしまって飯野にはいないし。ずっと欲しかったんだ」











久保様が子猫を撫でながら言うのを見ながら、やはり忠続殿は反対なのかしら…と私は少し心配になる。



  


加久藤かくとうとは、久保様の父上様の居城…加久藤城かくとうじょうのこと。






もともとは飯野城が居城だったのだけど、九州征伐の後に久保様に飯野城が下げ渡されたと同時に、久保様の父上様は加久藤城に移ったそう。







…飼い猫たちを皆、連れて。











 




「二匹ともでございますか!?」








「あぁ」











…せめて一匹にしろということかしら。








すると忠続は一瞬の後、久保様と同じように親匡が抱えている籠を覗き込んだ。







「よかったなぁお前達!兄弟離れ離れにしてしまうと思うと、心が痛かったのだ!」







でれっと笑った忠続殿に、あなたも猫好きだったのね、と笑う。







本当に、久保様の側近の者たちは良い者ばかり。








「…三蔵、なんだその大荷物はぁ?」







「山本先生の荷物でございます、堀之内様。中は見てはならぬと固く言いつけられました」







「ほぉ…」








久規殿は、荷を背に担いでいる三蔵を手伝ってあげている。









「…そう言われると気になるなぁ?」









そう呟いて中を見ようとする久規を見た親匡が叫び声を上げた。









「あぁぁぁ!!それ見たら呪われますよ!久規さん!」







「えぇ!?」









…呪われるって、何なのかしら。








私はそう不思議に思うけど、純粋な久規は親匡の言葉にただ恐れおののいていた。






















「——————さぁ。そろそろ行かねばな」









久保様は愉快な側近達に笑うと、颯爽と馬に乗る。







当然のように伸ばされた手を掴むと、彼は軽々と私を引き上げ馬に乗せた。

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