第71話

「で、だ。…腹は決まったか?匡輝」


 








空を仰ぎながら三蔵の背中を叩いていた俺は、久保のその言葉に、そうだったと思って涙が引っ込む。










「…胡乱だが腕は確かな金創医と、武道も心得ている漢方医が居れば、私の配下は盤石だと思うのだが。おまけに、動物まで診ることができるのならば馬も安心」

 







その悪戯な笑顔に、忠続さんが続ける。








「確かに胡乱。ですが確かに、人と動物を診ることができる医者がいるのは、武家としては有り難いことでございますな」

 






「そうだな。久規も、よいな?」







「はい。胡乱な医術は仕方ありませぬが、弓は負けませぬ!」







「匡輝、こやつを切り刻んで三蔵に金創の医術を教えてやってよいぞ。この忠続、手伝おう」







「なにっ?!」







完全にイジられキャラの久規さんの憎めない感じに、久保と忠続さんも笑う。






というか忠続さんの笑顔、初めて見た気がする。








「皆してうろんうろん言って…」






 


まぁ、それ以外の何者でもないけど。


    







「…礼を言うのを忘れていたな」








一頻り笑った久保は、穏やか表情のまま俺の前に片膝をつく。








そして深く、ただ綺麗に笑った。



















「島津領内の者は皆、私にとって大切な者だ。


あの娘を助けてくれたこと…心から感謝する。




——————————ありがとう」


















ありがとう。






そう誰にでも言える、その器の大きさに俺はただ思う。









…この人さえ、生きていればと。








そしたらこの戦国の世が終わり、この人の弟が薩摩藩を立藩する時…全てが違っただろう。










——————————島津久保。







島津家17代目当主にして、後の薩摩藩初代藩主の、兄。









彼は文禄2年9月8日






今から4年後に…








出征中の朝鮮の地で病没したと伝わる。









皆に慕われ、将来を嘱望しょくぼうされながら…










—————————21歳の、その若さで。


















そこまで考えて、思う。








…病没?









二十歳はたちそこそこの健康な若い男が、病没なんて。







何の病気だよ。










そう考えて、はっとする。








令和の医療の知識があるなら。











——————————治せるんじゃないか?

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