第65話

「……日向の飯野城……に…」




 




島津久保の居城は、宮崎県えびの市にある飯野城だ。






若干15歳で飯野城と、その城のある真幸院まさきいんという地を安堵されている。








どんだけ優秀なんだよ、なんて思うが。








「あぁ。しばらくは、妻に生まれ故郷の薩摩の桜は見せてやれなくなるし」






その言葉に、ちらりと彼の横で猫を愛でているその姿を見る。






亀寿姫は確か…鹿児島市にあったうち城と呼ばれる義久の居城生まれだったか。







内城は多分ここからそんなに離れていない場所にあるはずだ。







少し寂しそうに笑った久保に、亀寿姫は子猫を両手に抱えたまま首を横に振って笑う。







「久保様と一緒に見られる桜なら、私はどこでもようございます」







「…そうか?」








「はい」







…めっちゃラブラブじゃないか。







美男美女が微笑み合って甘い空気が流れそうになったから、俺は気恥ずかしくて心の中で突っ込む。





島津久保は結婚して数年しても子ができていないのに、生涯正室・亀寿姫しか傍に置いてない。





これはこの戦国時代では異例なことで。






1年くらいで子供ができなければ、側室を考えるとこだろう。



 




跡継ぎを作るのは、当主の務め。

 





まぁ、入婿として当主・義久の娘を正室に迎えている以上、側室を起きたくても無理だったんだろうな…ぐらいしか俺は思っていなかったが。









…絶対違う気がする、と。






  


絵になるくらいラブラブな二人の雰囲気を見て、俺は思うわけで。











「あの…ひとつお伺いしても…?」








俺はしっかりと正座し直して呟く。





 


すると久保は子猫を抱いたままこちらを向いた。


  






「なんだ?」







軽く微笑むだけで超絶美男子で、なんだか同じ男として悔しくなる。





 


「…あの…失礼なことをお聞きしてしまうかもしれないんですけど…」


 







一度和尚様から聞いたような気がしたけど、俺はあの時かなり動揺していたからもう一度聞いてみよう。






だけどなんか聞きづらくて、少し口籠る。







いや、気に触ること言ったら普通に切り捨てられるかもしれない。







戦国大名の島津は九州最強と称され、あまりの獰猛どうもうな強さゆえに令和では『戦闘民族』とまで言われたりしている。







…いや目の前にいるのは、1mmも獰猛には見えないめちゃくちゃ爽やかな美男子だけど。






島津の御曹司と呼ばれるこの人は間違いなく、人を切り捨てるなんて容易くできるほどの権力を持っている。

 








「構わぬ。申せ」








子猫が肩によじ登るのにも微笑んでいる彼に、思い切って聞いた。



















「…今の島津の御当主というのは…どなた様…で…」




















すると彼は意表をつかれたかのように目を丸くする。







だけどすぐにふっと優しく微笑んだ。



















「…一応…私だが?」





 














その一言に、泣きたくなる。






やっぱり。





やっぱり…!!











「…と言っても、4日ほど前からだがな。祝言を挙げてからだが…………おい、大丈夫か?すまぬ。…不服か?」










正しかったんだ俺の仮説…!!!!






一応、と言った所に彼の謙虚な人柄が表れている気がするけど。







感動して泣きそうになり突っ伏した俺に、本気で申し訳無さそうに言ってくるから慌てて首を振る。






不服か?なんて、そんなわけない。











「…いえ…………めっちゃ嬉しくて…」








なんとか体を起こして言った俺のその言葉に、久保と姫は驚いたように顔を見合わせる。







だけど、すぐに笑ってくれた。








「…そう言ってくれるのか。ありがとう。民にそう言われるのは…何よりも嬉しい」










多分俺をただの薩摩の領民だと思っているのだろう。







ただそれなら久保と俺の身分なんて天と地ほどなはずなのに、そんな俺に何の躊躇いもなく『ありがとう』と言えるその清廉さ。










一気に惹かれる。

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