第63話

「…そうだ。だが我らは負けた。それが全てだ。



…だから、勝つと信じて死んでいった家臣達の弔いを、な」









家臣の、弔いを…。






そんなことをする武将がいたのか。






 


九州が平定されたら、250万石。






それをほぼ手中に収めたと言ってもいい、島津家の次期当主が。






家臣の、弔いを。









「…それより、お前名は何と申す?」








「や、山本匡輝やまもとまさきです…」








明らかに俺より歳下だけど、絶対的な威厳とカリスマ性を感じて、平伏す。







「…医者の…山本…聞かぬな」









考えている様子に、やばい、と思って頭をフル回転させる。






どうしよう、と思うと久保公は続けた。








「…金創医きんそういか?」








金創医きんそうい、と聞いて考える。








金創医とは、戦国時代に現れた刀傷を専門とした謂わば外科医のことだ。







…獣医は外科も内科もやるし、俺も手術だってやってるけど。







「…まぁ、動物の…ですけど…」








小さい声で曖昧に言って、背中に冷や汗をかく。







すると久保公は綺麗に笑った。




 





「やはりそうか。驚いたが…見事な手捌きだったからな。あのようなことが出来る金創医はきっと並大抵ではない。…大したものだ」









焦っていて全然気づかなかったけど、全て見ていたのか。






この人は。






ここが戦国時代で、俺が持っているのは令和の獣医療の技術と知識だから、すごく見えるだけで。



 


まだまだ動物の医者としての経験は足りない。






だからこんなに仕事で誰かに肯定してもらったことってなくて、純粋に嬉しくて言葉を返せずにただ小さく頭を下げた。







そんな俺を見て、久保公は優しく笑った。












これが。






俺と島津久保の出会いだった。

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